私と御曹司の始まらない恋の一部始終
第19話 怒涛の学園祭
お姉ちゃまの劇、見に行くわね」「僕も行くから!」
「わあ嬉しい。お姉ちゃん頑張るからね!」
学園祭の日、朝から響と游がはしゃいでいる。かわいらしい二人が楽しみにしているのは嬉しいが、杏奈の状況は切羽詰まっていて心は重たい。
昨日初めて日下部雪華と話せたのは前進ではあった。だが……。
「日下部さん、明日の学園祭来てみない?」
「うーん、それはどうかな。でもまた杏奈の恋の話は聞かせてよ。告白、するんでしょ?」
「それは……まだわかんない」
「ふうん。でも聞きたい、杏奈の恋のゆくえ」
「わかった。また相談させて」
「やった!」
という感じで昨日は終わってしまったのだ。
しかも帰る時にちょうど日下部雪華の母親が帰って来て
「佐藤さん、明日で約束の一か月だけど、雪華は登校できそうかしら?」
と聞かれてしまった。
「それはまだわかりませんが……今日は雪華さんとたくさんお話できたので、もう少し時間をかければきっと登校してくれると思います。なのでできれば期限を延長してほしいんですけど……」
と、頼んでみたのだ。
だが、返事は冷たかった。
「あなたとの約束は一か月よ。S組編入のためにどれだけ寄付金を積んだと思っているの? 一か月かけてダメなら他の方法を探すわ。そうでしょう?」
杏奈は反論できなかった。
よって今日の学園祭に雪華が登校しない限り、杏奈のS組編入は打ち切られるだろう。そして雪華が登校する可能性はだいぶ低い。となると三山タイシに告白して一気に勝負に出るしかないが、これもうまくいく気がしない。
でもあきらめるのはまだ早い。
学園祭マジックというのがある。学園祭当日の盛り上がりの中で気持ちが高揚して恋が始まってしまうやつだ。
杏奈には計画があった。
劇の中で8秒間見つめあい、さらにアドリブで急に抱きついてしまう。そうすれば気持ちはグンと盛り上がって。告白がうまくいくような気がする。
やるしかない!
杏奈は気合をいれた。
劇本番前、杏奈は特殊メイクと耳つきカチューシャで小鹿になった。三山君はライオンになっているはずだ。杏奈はアドリブで抱きつくイメージトレーニングをする。
大丈夫、絶対にうまくいく!
幕があいて小鹿の杏奈が出て行く。
客席には響と游、それにA組の親友・ゆりぴょんもいた!
あ~懐かしいよ~ゆりぴょん!
ゆりぴょんにもS組編入は言わなかったから、小鹿役が杏奈と気が付くのか気になってしまう。
舞台上にライオンが出てきた、いよいよだ。
「僕はライオン 花の香りが大好きさ」
んん?
この声は……田鍋君? どうして?
ライオンの特殊メイクをしているから素顔は見えないが、この声は田鍋ケイイチロウだ。怪我が治って本番で主役に復帰したの? 聞いてない!
杏奈は驚きすぎてセリフが飛んでしまった。
舞台上で棒立ちになった小鹿(杏奈)の様子に、舞台袖からクラスメートが心配そうな顔で台詞を伝えようとしているが、杏奈の目には入ってこない。
どうして田鍋君が? わたし、次なんて言うんだっけ? なんで田鍋君? あれ?
その時、ライオン(田鍋ケイイチロウ)がふわっと杏奈を抱きしめ
「大丈夫だ、杏奈ならできる」
と耳元でささやいた。
そして
「ねえ君は誰? 友達?」
とライオンは小鹿の周りをクルクル回った。
杏奈はようやく自分のセリフを思い出した。
舞台袖にはけてすぐ
「あれ田鍋君じゃない? 聞いてた?」
とクラスメートに聞いてみたが、誰も知らなかったようでみんな驚いていた。
田鍋君と三山君の間だけで決めたのだろうか。ひどい! 学園祭マジックが使えない!
……それに、さっきの何?
田鍋ケイイチロウが近寄ってきて……耳元でささやいて……
ボム! 杏奈の脳みそか、頬か、それとも胸か、どこかが破裂したような気がする。
……私、劇を続けられるの?
杏奈の気持ちとは裏腹に舞台は続き、劇はクライマックスに向かう。
ライオンが自分こそ約束のプリンスだと思い出し、親友になった小鹿が本当はライオンのために用意された「食事」だったと気が付く。
ライオンが小鹿を見つめる。小鹿も自分の運命を受け入れ、ライオンを見つめる。
1秒、2秒、3秒……
台本通りならライオンは「食べるなんてできない!」と小鹿に背を向ける。小鹿は「食べて!そしてこの国を救って!」と言うのだ。
ここで杏奈はアドリブでライオン役の三山タイシに抱き着くはずだった。それなのに。
8秒、9秒、10秒……
ライオンは何も言わずまだ小鹿を見つめている。杏奈も特殊メイクの下にある田鍋ケイイチロウのことを見つめていた。
この人はいつも私を助けてくれる……。
でも冷静な頭では、田鍋君はセリフを忘れたのかもと考え始めていた。けれどそんなことどうでもいいぐらい、杏奈はライオンを見つめ、目が離せない。
「食べるなんてできない!」
田鍋ケイイチロウはようやくセリフを発すると、小鹿の杏奈を抱きしめた。
え?! 杏奈は頭の中が真っ白になって、またセリフが飛んだ。
「たとえ国が救えるとしても、僕は君を食べるなんてできない。君は僕の親友だから!」
ライオンが小鹿のセリフもカバーし、舞台は暗転した。
舞台袖に捌けた杏奈はまだドキドキしていた。
「さっきの何?」
とケイイチロウに聞く。
「俺の役者魂が炸裂したようだ」
田鍋君が言う。
なにそれ、やめてよ。私をドキドキさせないでよ。
S組の劇「とびだせライオンキングダム」は拍手喝采で幕を閉じた。
カーテンコールの時、田鍋君が杏奈の手を握って二人で手をあげ拍手にこたえた。観客へのパフォーマンスとわかっているのに、杏奈の手は熱くなった。
舞台袖には三山君がいて
「佐藤さん、素晴らしかったです」
とにこやかに杏奈を迎えてくれた。
私が告白すべきなのはこの人……杏奈は確認するように三山タイシを見た。
「杏奈ちゃん、すごくよかったわ」
更衣室へ向かう途中、ウタちゃんに声をかけられた。
「ウタちゃんは本番に田鍋君が出るって知ってた?」
「ううん、びっくりしたわ」
ウタちゃんも知らなかったのか。
「それでね、三山君も照明を手伝ってくれて、一緒に見ていたの。三山君が『舞台の神様が味方してくれていますね』って言っていたわ」
嬉しそうに話すウタちゃんに、杏奈の心がチクりと痛んだ。
ウタちゃんはきっと三山君のことが好きだ。でもその恋を私は応援できない。それどころか私は本当の恋もしてないのにこれから三山君に告白しようとしている。
客席にいた響と游のことを思い浮かべた。立ち上がって拍手してくれたカワイイ妹と弟。あの二人のために、私は絶対に告白を成功させなくちゃ。そのためにはまず特殊メイクを落として、自分史上最高のカワイイ私にならなきゃ……。
洗面台に行き、クレンジングをしている時だった。
「秀礼学園のみなさん、聞こえてますか? 歌い手のYUNです」
校内スピーカーから女の子の声がした。
YUN? ウタちゃんが流行っていると言っていたあの?
「今日は秀礼学園学園祭のシークレットゲストとして、音楽室から皆に歌を届けたいと思います。一応覆面でやらせてもらってるんで、スピーカー越しになっちゃうけど許してよね」
校舎のどこかから歓声があがっている。
「曲は『恋だったよ』です。この曲を聴いて自分が誰を好きなのかわかった、ってコメントたくさん来てて嬉しいです。今日もこの曲を聴いて思い浮かべた人がいたら、その人のところに行ってほしい。走り出してほしい。あなたのキラキラした想いがちゃんと届きますように。それでは聴いてください。『恋だったよ』」
ピアノの音色がしてYUNの透き通った声が響き渡る。
~流れてく毎日のストーリー いいね押したら終わり
なのに君はステイ
いつも思い浮かべちゃう 視線の先に 心の中に 君ばかり~
杏奈は曲を聴きながら顔を洗っていた。何度も何度も顔を洗った。
メイクを落とすためじゃない。泣いていると誰かにバレてしまわないように。泣いていると自分自身が気づかないように。
~私、恋をしてるんだ 痛く 甘く 苦く にじんで 恋だったよ~
YUNのメッセージが蘇る。「この曲を聴いて思い浮かべた人がいたら、その人のところに行ってほしい。走り出してほしい。あなたのキラキラした想いがちゃんと届きますように」
杏奈はタオルで顔を拭くのももどかしく、走り出した。
ああでも、向こうも同じようにメイクを落としたり着替えたりしてるかも。今行ったら迷惑かな、どうしよう、でも会いたい。
杏奈は正反対の場所にある、その場所へ向かって走っていた。
だが、前方の廊下を横切っていく三山タイシの姿を見つけて、杏奈の足が止まった。
三山君……? どこへ……?
杏奈は三山タイシが走り去った方向へ、追いかけて行った。
三山君が入っていったのはS組の生徒専用の医務室だった。誰か具合の悪い人が出たのかな? でも三山君があんなに急いでいたということはもしかして田鍋君?!
「大丈夫?!」
杏奈は突発的に勢いよくドアを開けた。
「え?!」
そこには、上半身裸の田鍋ケイイチロウが、同じく上半身裸の三山タイシにベッドに押し倒されたような状態で横たわっていた。
どういう状況……? 杏奈は絶句したままその場に立ち尽くした。
「わあ嬉しい。お姉ちゃん頑張るからね!」
学園祭の日、朝から響と游がはしゃいでいる。かわいらしい二人が楽しみにしているのは嬉しいが、杏奈の状況は切羽詰まっていて心は重たい。
昨日初めて日下部雪華と話せたのは前進ではあった。だが……。
「日下部さん、明日の学園祭来てみない?」
「うーん、それはどうかな。でもまた杏奈の恋の話は聞かせてよ。告白、するんでしょ?」
「それは……まだわかんない」
「ふうん。でも聞きたい、杏奈の恋のゆくえ」
「わかった。また相談させて」
「やった!」
という感じで昨日は終わってしまったのだ。
しかも帰る時にちょうど日下部雪華の母親が帰って来て
「佐藤さん、明日で約束の一か月だけど、雪華は登校できそうかしら?」
と聞かれてしまった。
「それはまだわかりませんが……今日は雪華さんとたくさんお話できたので、もう少し時間をかければきっと登校してくれると思います。なのでできれば期限を延長してほしいんですけど……」
と、頼んでみたのだ。
だが、返事は冷たかった。
「あなたとの約束は一か月よ。S組編入のためにどれだけ寄付金を積んだと思っているの? 一か月かけてダメなら他の方法を探すわ。そうでしょう?」
杏奈は反論できなかった。
よって今日の学園祭に雪華が登校しない限り、杏奈のS組編入は打ち切られるだろう。そして雪華が登校する可能性はだいぶ低い。となると三山タイシに告白して一気に勝負に出るしかないが、これもうまくいく気がしない。
でもあきらめるのはまだ早い。
学園祭マジックというのがある。学園祭当日の盛り上がりの中で気持ちが高揚して恋が始まってしまうやつだ。
杏奈には計画があった。
劇の中で8秒間見つめあい、さらにアドリブで急に抱きついてしまう。そうすれば気持ちはグンと盛り上がって。告白がうまくいくような気がする。
やるしかない!
杏奈は気合をいれた。
劇本番前、杏奈は特殊メイクと耳つきカチューシャで小鹿になった。三山君はライオンになっているはずだ。杏奈はアドリブで抱きつくイメージトレーニングをする。
大丈夫、絶対にうまくいく!
幕があいて小鹿の杏奈が出て行く。
客席には響と游、それにA組の親友・ゆりぴょんもいた!
あ~懐かしいよ~ゆりぴょん!
ゆりぴょんにもS組編入は言わなかったから、小鹿役が杏奈と気が付くのか気になってしまう。
舞台上にライオンが出てきた、いよいよだ。
「僕はライオン 花の香りが大好きさ」
んん?
この声は……田鍋君? どうして?
ライオンの特殊メイクをしているから素顔は見えないが、この声は田鍋ケイイチロウだ。怪我が治って本番で主役に復帰したの? 聞いてない!
杏奈は驚きすぎてセリフが飛んでしまった。
舞台上で棒立ちになった小鹿(杏奈)の様子に、舞台袖からクラスメートが心配そうな顔で台詞を伝えようとしているが、杏奈の目には入ってこない。
どうして田鍋君が? わたし、次なんて言うんだっけ? なんで田鍋君? あれ?
その時、ライオン(田鍋ケイイチロウ)がふわっと杏奈を抱きしめ
「大丈夫だ、杏奈ならできる」
と耳元でささやいた。
そして
「ねえ君は誰? 友達?」
とライオンは小鹿の周りをクルクル回った。
杏奈はようやく自分のセリフを思い出した。
舞台袖にはけてすぐ
「あれ田鍋君じゃない? 聞いてた?」
とクラスメートに聞いてみたが、誰も知らなかったようでみんな驚いていた。
田鍋君と三山君の間だけで決めたのだろうか。ひどい! 学園祭マジックが使えない!
……それに、さっきの何?
田鍋ケイイチロウが近寄ってきて……耳元でささやいて……
ボム! 杏奈の脳みそか、頬か、それとも胸か、どこかが破裂したような気がする。
……私、劇を続けられるの?
杏奈の気持ちとは裏腹に舞台は続き、劇はクライマックスに向かう。
ライオンが自分こそ約束のプリンスだと思い出し、親友になった小鹿が本当はライオンのために用意された「食事」だったと気が付く。
ライオンが小鹿を見つめる。小鹿も自分の運命を受け入れ、ライオンを見つめる。
1秒、2秒、3秒……
台本通りならライオンは「食べるなんてできない!」と小鹿に背を向ける。小鹿は「食べて!そしてこの国を救って!」と言うのだ。
ここで杏奈はアドリブでライオン役の三山タイシに抱き着くはずだった。それなのに。
8秒、9秒、10秒……
ライオンは何も言わずまだ小鹿を見つめている。杏奈も特殊メイクの下にある田鍋ケイイチロウのことを見つめていた。
この人はいつも私を助けてくれる……。
でも冷静な頭では、田鍋君はセリフを忘れたのかもと考え始めていた。けれどそんなことどうでもいいぐらい、杏奈はライオンを見つめ、目が離せない。
「食べるなんてできない!」
田鍋ケイイチロウはようやくセリフを発すると、小鹿の杏奈を抱きしめた。
え?! 杏奈は頭の中が真っ白になって、またセリフが飛んだ。
「たとえ国が救えるとしても、僕は君を食べるなんてできない。君は僕の親友だから!」
ライオンが小鹿のセリフもカバーし、舞台は暗転した。
舞台袖に捌けた杏奈はまだドキドキしていた。
「さっきの何?」
とケイイチロウに聞く。
「俺の役者魂が炸裂したようだ」
田鍋君が言う。
なにそれ、やめてよ。私をドキドキさせないでよ。
S組の劇「とびだせライオンキングダム」は拍手喝采で幕を閉じた。
カーテンコールの時、田鍋君が杏奈の手を握って二人で手をあげ拍手にこたえた。観客へのパフォーマンスとわかっているのに、杏奈の手は熱くなった。
舞台袖には三山君がいて
「佐藤さん、素晴らしかったです」
とにこやかに杏奈を迎えてくれた。
私が告白すべきなのはこの人……杏奈は確認するように三山タイシを見た。
「杏奈ちゃん、すごくよかったわ」
更衣室へ向かう途中、ウタちゃんに声をかけられた。
「ウタちゃんは本番に田鍋君が出るって知ってた?」
「ううん、びっくりしたわ」
ウタちゃんも知らなかったのか。
「それでね、三山君も照明を手伝ってくれて、一緒に見ていたの。三山君が『舞台の神様が味方してくれていますね』って言っていたわ」
嬉しそうに話すウタちゃんに、杏奈の心がチクりと痛んだ。
ウタちゃんはきっと三山君のことが好きだ。でもその恋を私は応援できない。それどころか私は本当の恋もしてないのにこれから三山君に告白しようとしている。
客席にいた響と游のことを思い浮かべた。立ち上がって拍手してくれたカワイイ妹と弟。あの二人のために、私は絶対に告白を成功させなくちゃ。そのためにはまず特殊メイクを落として、自分史上最高のカワイイ私にならなきゃ……。
洗面台に行き、クレンジングをしている時だった。
「秀礼学園のみなさん、聞こえてますか? 歌い手のYUNです」
校内スピーカーから女の子の声がした。
YUN? ウタちゃんが流行っていると言っていたあの?
「今日は秀礼学園学園祭のシークレットゲストとして、音楽室から皆に歌を届けたいと思います。一応覆面でやらせてもらってるんで、スピーカー越しになっちゃうけど許してよね」
校舎のどこかから歓声があがっている。
「曲は『恋だったよ』です。この曲を聴いて自分が誰を好きなのかわかった、ってコメントたくさん来てて嬉しいです。今日もこの曲を聴いて思い浮かべた人がいたら、その人のところに行ってほしい。走り出してほしい。あなたのキラキラした想いがちゃんと届きますように。それでは聴いてください。『恋だったよ』」
ピアノの音色がしてYUNの透き通った声が響き渡る。
~流れてく毎日のストーリー いいね押したら終わり
なのに君はステイ
いつも思い浮かべちゃう 視線の先に 心の中に 君ばかり~
杏奈は曲を聴きながら顔を洗っていた。何度も何度も顔を洗った。
メイクを落とすためじゃない。泣いていると誰かにバレてしまわないように。泣いていると自分自身が気づかないように。
~私、恋をしてるんだ 痛く 甘く 苦く にじんで 恋だったよ~
YUNのメッセージが蘇る。「この曲を聴いて思い浮かべた人がいたら、その人のところに行ってほしい。走り出してほしい。あなたのキラキラした想いがちゃんと届きますように」
杏奈はタオルで顔を拭くのももどかしく、走り出した。
ああでも、向こうも同じようにメイクを落としたり着替えたりしてるかも。今行ったら迷惑かな、どうしよう、でも会いたい。
杏奈は正反対の場所にある、その場所へ向かって走っていた。
だが、前方の廊下を横切っていく三山タイシの姿を見つけて、杏奈の足が止まった。
三山君……? どこへ……?
杏奈は三山タイシが走り去った方向へ、追いかけて行った。
三山君が入っていったのはS組の生徒専用の医務室だった。誰か具合の悪い人が出たのかな? でも三山君があんなに急いでいたということはもしかして田鍋君?!
「大丈夫?!」
杏奈は突発的に勢いよくドアを開けた。
「え?!」
そこには、上半身裸の田鍋ケイイチロウが、同じく上半身裸の三山タイシにベッドに押し倒されたような状態で横たわっていた。
どういう状況……? 杏奈は絶句したままその場に立ち尽くした。