私と御曹司の始まらない恋の一部始終
第22話 杏奈の真意?
学園祭の振り替え休日。三山大紫は憂鬱な気持ちで朝を迎えた。
昨日、圭一郎から聞いたBLとはボーイズ・ラブのことだった。
「杏奈は、俺とお前がラ、ラブだと思っているのか?!」
「そのようです」
平然としている圭一郎に腹がたってきた。いや、そんな誤解をする杏奈も浅はかすぎる。
「なんでそんな……」
「昨日わたくしたちが医務室に二人でいたこと、上半身裸だったことが原因でしょう」
「くだらない」
「ご安心ください大紫様。誤解は解けば良いのです。ただ気になるのは……」
「婚約者、だな」
「はい」
俺と圭一郎の関係を誤解したとしても、なぜ杏奈を婚約者にする話につながるのか。圭一郎もそのことについては何もわからないと昨夜は言っていた。
ノックの音がして
「大紫様、そろそろお支度を」
圭一郎が呼びにきた。
「わかった」
大紫はゆっくりと起き上がる。今日は杏奈が家にくることになっている。
「お邪魔します」
杏奈がいつになく緊張した顔でやってきた。
事前に打ち合わせた結果、圭一郎の部屋に杏奈を通した。
「うむ」
大紫は、田鍋ケイイチロウとして自分の部屋のようにふるまってみる。
そのあとは、圭一郎が三山タイシとして今日の話し合いをまとめると言っていたので、大紫は冷静に観察することにした。
「佐藤さん、昨日はゆっくりお話ができず申し訳ありませんでした」
「こっちこそ二人のその……仲良しな時間を邪魔しちゃってごめんね」
「その件ですが、失礼ですが佐藤さんは思い違いをなさっているような気がします」
「え」
「わたしと、田鍋ケイイチロウは、主と執事、学園ではクラスメート、それ以外のなにものでもありません」
「でも医務室で」
「舞台衣装を外すのを手伝おうとして倒れてしまっただけです」
「……本当に?」
「本当です」
まだ怪しんでいる杏奈に
「まったくとんだ想像力だな、俺たちは主従であるが対等で互いに信頼を寄せあっている。友情以上の結びつきだとは思うが、まさか恋愛とは。方向性がまったく違う」
大紫がきっぱりと言った。圭一郎が目を潤ませてうなずいている。
「だったらなんであのとき、私の提案を受け入れたの?」
「あのとき、わたくしたちはとても急いでおりましたので、話をあわせてしまいました。申し訳ありません」
「そんな……」
杏奈が絶望的な顔をした。
「杏奈、あの提案はいったいなんだったんだ。その……婚約者になりたいと言ったな」
大紫は体が少し熱くなった気がした。
いや、俺の婚約者ではない、俺は今、田鍋ケイイチロウだ。
それに……
「表向きの婚約者でいいとはどういうことだ」
昨夜、圭一郎と話した時も気にかかったのはそこだった。
「だからそれは……二人が恋人関係だと思ったから。でも三山君は婚約者を探してるでしょ?もちろん女子の。だったらその役を私ができたらなって思ったのよ」
「婚約者だぞ? のちに結婚するんだ、演劇の代役とはワケが違う。わかっているのか」
「わかってるよ!」
「いいやわかっていない。婚約や結婚は……相手を愛していないとできないはずだ」
「そんなことない、私聞いたもの、三山君は高校卒業までに婚約者を見つけられなかったら、親の決めた相手と婚約するんでしょ? その人を愛してなくっても」
「う……」
大紫は答えに詰まった。たしかにその通りだ。だが、だが、だが!
「では佐藤さんが愛もなく私の婚約者になる理由はなんでしょうか」
おお、圭一郎、よく聞いた!それだ、俺が聞きたいのは!
「それは……」
杏奈がなんどもまばたきし、どう答えたらいいのか迷っているのがわかる。大紫は杏奈の返答を辛抱強く待った。
「……お金が必要だから」
とてもとても小さな声で杏奈が言った。
「金?!」
「三山君の婚約者になったら支度金がもらえるんでしょう? だから私……」
「待て、杏奈は金のために結婚すると言っているのか?!」
「ううん、結婚はしない」
「は?」
「三山君はとても素敵な人だけど……結婚はできない。私、好きな人がいる」
大紫は落雷でも落ちたように、頭の中が真っ白になった。
「つまり佐藤さんは、婚約して支度金をもらいたいが、他に好きな人がいるので結婚は出来かねると?」
「うん」
なんということだ。
「それは……率直に申し上げて、あまりにも……」
「ごめんね三山君、自分でもひどいと思ってる。でも私本当に困っていて」
大紫は頭を抱えた。
「お金に関することでお困りなのですか?」
「うん……あのね……」
「帰ってくれ」
「え」
「今日はもう帰ってほしい」
大紫は杏奈の顔を見ずに繰り返した。
何かを察した圭一郎が杏奈を連れて部屋を出て行ったあと、大紫はソファにもたれ天井を見上げた。
佐藤杏奈には好きな人がいる。
佐藤杏奈には好きな人がいる。
重くて大きな石が大紫のすべてを押しつぶすようだった。
昨日、圭一郎から聞いたBLとはボーイズ・ラブのことだった。
「杏奈は、俺とお前がラ、ラブだと思っているのか?!」
「そのようです」
平然としている圭一郎に腹がたってきた。いや、そんな誤解をする杏奈も浅はかすぎる。
「なんでそんな……」
「昨日わたくしたちが医務室に二人でいたこと、上半身裸だったことが原因でしょう」
「くだらない」
「ご安心ください大紫様。誤解は解けば良いのです。ただ気になるのは……」
「婚約者、だな」
「はい」
俺と圭一郎の関係を誤解したとしても、なぜ杏奈を婚約者にする話につながるのか。圭一郎もそのことについては何もわからないと昨夜は言っていた。
ノックの音がして
「大紫様、そろそろお支度を」
圭一郎が呼びにきた。
「わかった」
大紫はゆっくりと起き上がる。今日は杏奈が家にくることになっている。
「お邪魔します」
杏奈がいつになく緊張した顔でやってきた。
事前に打ち合わせた結果、圭一郎の部屋に杏奈を通した。
「うむ」
大紫は、田鍋ケイイチロウとして自分の部屋のようにふるまってみる。
そのあとは、圭一郎が三山タイシとして今日の話し合いをまとめると言っていたので、大紫は冷静に観察することにした。
「佐藤さん、昨日はゆっくりお話ができず申し訳ありませんでした」
「こっちこそ二人のその……仲良しな時間を邪魔しちゃってごめんね」
「その件ですが、失礼ですが佐藤さんは思い違いをなさっているような気がします」
「え」
「わたしと、田鍋ケイイチロウは、主と執事、学園ではクラスメート、それ以外のなにものでもありません」
「でも医務室で」
「舞台衣装を外すのを手伝おうとして倒れてしまっただけです」
「……本当に?」
「本当です」
まだ怪しんでいる杏奈に
「まったくとんだ想像力だな、俺たちは主従であるが対等で互いに信頼を寄せあっている。友情以上の結びつきだとは思うが、まさか恋愛とは。方向性がまったく違う」
大紫がきっぱりと言った。圭一郎が目を潤ませてうなずいている。
「だったらなんであのとき、私の提案を受け入れたの?」
「あのとき、わたくしたちはとても急いでおりましたので、話をあわせてしまいました。申し訳ありません」
「そんな……」
杏奈が絶望的な顔をした。
「杏奈、あの提案はいったいなんだったんだ。その……婚約者になりたいと言ったな」
大紫は体が少し熱くなった気がした。
いや、俺の婚約者ではない、俺は今、田鍋ケイイチロウだ。
それに……
「表向きの婚約者でいいとはどういうことだ」
昨夜、圭一郎と話した時も気にかかったのはそこだった。
「だからそれは……二人が恋人関係だと思ったから。でも三山君は婚約者を探してるでしょ?もちろん女子の。だったらその役を私ができたらなって思ったのよ」
「婚約者だぞ? のちに結婚するんだ、演劇の代役とはワケが違う。わかっているのか」
「わかってるよ!」
「いいやわかっていない。婚約や結婚は……相手を愛していないとできないはずだ」
「そんなことない、私聞いたもの、三山君は高校卒業までに婚約者を見つけられなかったら、親の決めた相手と婚約するんでしょ? その人を愛してなくっても」
「う……」
大紫は答えに詰まった。たしかにその通りだ。だが、だが、だが!
「では佐藤さんが愛もなく私の婚約者になる理由はなんでしょうか」
おお、圭一郎、よく聞いた!それだ、俺が聞きたいのは!
「それは……」
杏奈がなんどもまばたきし、どう答えたらいいのか迷っているのがわかる。大紫は杏奈の返答を辛抱強く待った。
「……お金が必要だから」
とてもとても小さな声で杏奈が言った。
「金?!」
「三山君の婚約者になったら支度金がもらえるんでしょう? だから私……」
「待て、杏奈は金のために結婚すると言っているのか?!」
「ううん、結婚はしない」
「は?」
「三山君はとても素敵な人だけど……結婚はできない。私、好きな人がいる」
大紫は落雷でも落ちたように、頭の中が真っ白になった。
「つまり佐藤さんは、婚約して支度金をもらいたいが、他に好きな人がいるので結婚は出来かねると?」
「うん」
なんということだ。
「それは……率直に申し上げて、あまりにも……」
「ごめんね三山君、自分でもひどいと思ってる。でも私本当に困っていて」
大紫は頭を抱えた。
「お金に関することでお困りなのですか?」
「うん……あのね……」
「帰ってくれ」
「え」
「今日はもう帰ってほしい」
大紫は杏奈の顔を見ずに繰り返した。
何かを察した圭一郎が杏奈を連れて部屋を出て行ったあと、大紫はソファにもたれ天井を見上げた。
佐藤杏奈には好きな人がいる。
佐藤杏奈には好きな人がいる。
重くて大きな石が大紫のすべてを押しつぶすようだった。