私と御曹司の始まらない恋の一部始終
第25話 泣いて笑って打ち明け話
日下部さんが本当に学校に来た。
S組のみんなは一瞬驚いたけど、平然と受け入れていた。
田鍋君だけは「初めましてだな!」とすぐに声をかけ、自己紹介を終えるとすぐに
「よろしくな、雪華」
と呼び捨てにしていた。
田鍋君らしい。くすっと笑いそうになったけど、胸がズキンと痛くなって笑えなかった。
昼休みになるとすぐに日下部さんが来て一緒にカフェテリアへ向かった。
「久しぶりに来てみたら、カップルができてて驚いちゃった、いい感じ!」
「そうらしいね、学園祭きっかけみたい」
「へえ、わたしのせいだったりして!」
「え?」
「雪華ちゃん、お元気そうね。また会えてうれしいわ」」
ウタちゃんだった。
「雪華ちゃんと杏奈ちゃんはお友達だったのね。みんなで一緒にランチにしましょう」
「ごめん詩子、杏奈と二人で食べたいんだ」
ウタちゃんが驚いた表情になる。でもすぐにいつものウタちゃんに戻って
「わかったわ。でもまたお誘いさせてね」
とにこやかに微笑んだ。
雪華はウタちゃんに構うことなく、杏奈の腕をとると
「ねえ、杏奈の好きな人ってS組にいるの?」
と待ちきれないふうに聞いてきた。
「ちょっ! 声が大きいって」
杏奈は慌てて雪華をカフェテリアの隅に連れて行きながら、うしろを振り向いた。
ウタちゃんが茫然と立っているのが見えた。
S組校舎と一般校舎をつなぐ渡り廊下横の中庭に雪華をつれてきた。ここなら人もいなくて安心して話せそうだ。
でもここは杏奈にとって切ない思い出の場所でもある。
サンドバックの落下事故の犯人だと桜月にフェイク動画をつきつけられて、悔しくて悲しくて一人で泣いたのはここだった。田鍋ケイイチロウがそんな杏奈を探しにきて手をさしのべた場所でもあった。
田鍋ケイイチロウの大きくて骨ばった手の感触や、杏奈を引っ張っていった大きな背中を思い出すと胸が締め付けられる。
「ねえ、好きな人って誰? 嫌われたってなんで? 何があったか教えてよ!」
雪華が好奇心を全開にして聞いてくる。いっそすがすがしいぐらいだ。正直どうかと思うけど、同情されたり気を使われたりするより今の杏奈には心地よかった。
誰かに話したら気持ちの整理がついて、この恋を終わらせることができるかもしれない。
杏奈は「長い話になっちゃうけど」と前置きして、両親の失踪と残された借金、家が抵当に入っていたことから話し出した。
「なにそれ、もうどこからツッコんでいいかわからないぐらいクソな話じゃん」
雪華は高層ビルのペントハウスに住んでいるお嬢様とは思えない口調で怒り出した。
「あー!でもごめん、早く恋バナ聞きたいからつっこむのは我慢する。続けて!」
雪華の、聞きたいのは恋バナだけっていう態度がおかしくて、杏奈はまた心が軽くなる。同情されたりしたら自分の不幸さを認めなくちゃいけなくなる。思えば杏奈はそうなるのを避けて、どうすれば状況を変えられるのかだけ考えて進んできたのだ。
杏奈は、婚約者を探している三山家の御曹司がS組に転入してくる情報を得て、支度金目当てにS組に転入したことを打ち明けた。
「マジで?ヤバ。杏奈マジで頭おかしーから!」
雪華がお腹をかかえて笑い出した。
「しかも私のおかげでS組に転入とか、マジうけるんだけど! 私が学校サボってたおかげじゃん、そんなんある?」
雪華が笑い過ぎて涙まで流しているのをみて、杏奈もおかしくて笑ってしまう。
「私、やばいよね?」
杏奈と雪華はもう笑いが止まらない。すると
「もう無理だよう」
中庭の生垣から、ゆりぴょんが顔を出した。
「ゆ、ゆりぴょん?!」
ゆりぴょんは笑うのをこらえていたらしく「お腹いたーい」とお腹を押さえながら出てきた。
「え、誰?」
雪華に言われて、あわててゆりぴょんを紹介する。
でもなんでゆりぴょんがここに?
「だってぇー杏奈ちゃんが返事くれないからぁー」
学園祭での小鹿役が杏奈ではないかと気づいたものの、杏奈から返信がないので、なんとなくS組と一般クラスをつなぐ渡り廊下に来てみたらしい。そうしたら杏奈が雪華にS組編入の事情を話しているのを聞いてしまったのだった。
「杏奈ちゃんてば、急にいなくなっちゃうんだもん、ゆり、本気で悲しかったんだよ。なのにもうー」
ゆりぴょんは口をとがらせてから
「最高!大好き!」
と杏奈に抱きついた。
「ゆりぴょん、言ってなくて本当ごめん」
「いいよそんなの」
ゆりぴょんと抱き合っていると
「でも、盗み聞きはよくないんじゃない?」
雪華が厳しい声で言った。
「ごめんなさい、でもそんなつもりはなくって、えっと……」
「そうだよ、ゆりぴょんに悪気はないから」
「違う、その子じゃない」
「え?」
杏奈は雪華の視線の先をみた。
「出てくれば?」
雪華に促され、S組の校舎から出てきたのは、ウタちゃんだった。
S組のみんなは一瞬驚いたけど、平然と受け入れていた。
田鍋君だけは「初めましてだな!」とすぐに声をかけ、自己紹介を終えるとすぐに
「よろしくな、雪華」
と呼び捨てにしていた。
田鍋君らしい。くすっと笑いそうになったけど、胸がズキンと痛くなって笑えなかった。
昼休みになるとすぐに日下部さんが来て一緒にカフェテリアへ向かった。
「久しぶりに来てみたら、カップルができてて驚いちゃった、いい感じ!」
「そうらしいね、学園祭きっかけみたい」
「へえ、わたしのせいだったりして!」
「え?」
「雪華ちゃん、お元気そうね。また会えてうれしいわ」」
ウタちゃんだった。
「雪華ちゃんと杏奈ちゃんはお友達だったのね。みんなで一緒にランチにしましょう」
「ごめん詩子、杏奈と二人で食べたいんだ」
ウタちゃんが驚いた表情になる。でもすぐにいつものウタちゃんに戻って
「わかったわ。でもまたお誘いさせてね」
とにこやかに微笑んだ。
雪華はウタちゃんに構うことなく、杏奈の腕をとると
「ねえ、杏奈の好きな人ってS組にいるの?」
と待ちきれないふうに聞いてきた。
「ちょっ! 声が大きいって」
杏奈は慌てて雪華をカフェテリアの隅に連れて行きながら、うしろを振り向いた。
ウタちゃんが茫然と立っているのが見えた。
S組校舎と一般校舎をつなぐ渡り廊下横の中庭に雪華をつれてきた。ここなら人もいなくて安心して話せそうだ。
でもここは杏奈にとって切ない思い出の場所でもある。
サンドバックの落下事故の犯人だと桜月にフェイク動画をつきつけられて、悔しくて悲しくて一人で泣いたのはここだった。田鍋ケイイチロウがそんな杏奈を探しにきて手をさしのべた場所でもあった。
田鍋ケイイチロウの大きくて骨ばった手の感触や、杏奈を引っ張っていった大きな背中を思い出すと胸が締め付けられる。
「ねえ、好きな人って誰? 嫌われたってなんで? 何があったか教えてよ!」
雪華が好奇心を全開にして聞いてくる。いっそすがすがしいぐらいだ。正直どうかと思うけど、同情されたり気を使われたりするより今の杏奈には心地よかった。
誰かに話したら気持ちの整理がついて、この恋を終わらせることができるかもしれない。
杏奈は「長い話になっちゃうけど」と前置きして、両親の失踪と残された借金、家が抵当に入っていたことから話し出した。
「なにそれ、もうどこからツッコんでいいかわからないぐらいクソな話じゃん」
雪華は高層ビルのペントハウスに住んでいるお嬢様とは思えない口調で怒り出した。
「あー!でもごめん、早く恋バナ聞きたいからつっこむのは我慢する。続けて!」
雪華の、聞きたいのは恋バナだけっていう態度がおかしくて、杏奈はまた心が軽くなる。同情されたりしたら自分の不幸さを認めなくちゃいけなくなる。思えば杏奈はそうなるのを避けて、どうすれば状況を変えられるのかだけ考えて進んできたのだ。
杏奈は、婚約者を探している三山家の御曹司がS組に転入してくる情報を得て、支度金目当てにS組に転入したことを打ち明けた。
「マジで?ヤバ。杏奈マジで頭おかしーから!」
雪華がお腹をかかえて笑い出した。
「しかも私のおかげでS組に転入とか、マジうけるんだけど! 私が学校サボってたおかげじゃん、そんなんある?」
雪華が笑い過ぎて涙まで流しているのをみて、杏奈もおかしくて笑ってしまう。
「私、やばいよね?」
杏奈と雪華はもう笑いが止まらない。すると
「もう無理だよう」
中庭の生垣から、ゆりぴょんが顔を出した。
「ゆ、ゆりぴょん?!」
ゆりぴょんは笑うのをこらえていたらしく「お腹いたーい」とお腹を押さえながら出てきた。
「え、誰?」
雪華に言われて、あわててゆりぴょんを紹介する。
でもなんでゆりぴょんがここに?
「だってぇー杏奈ちゃんが返事くれないからぁー」
学園祭での小鹿役が杏奈ではないかと気づいたものの、杏奈から返信がないので、なんとなくS組と一般クラスをつなぐ渡り廊下に来てみたらしい。そうしたら杏奈が雪華にS組編入の事情を話しているのを聞いてしまったのだった。
「杏奈ちゃんてば、急にいなくなっちゃうんだもん、ゆり、本気で悲しかったんだよ。なのにもうー」
ゆりぴょんは口をとがらせてから
「最高!大好き!」
と杏奈に抱きついた。
「ゆりぴょん、言ってなくて本当ごめん」
「いいよそんなの」
ゆりぴょんと抱き合っていると
「でも、盗み聞きはよくないんじゃない?」
雪華が厳しい声で言った。
「ごめんなさい、でもそんなつもりはなくって、えっと……」
「そうだよ、ゆりぴょんに悪気はないから」
「違う、その子じゃない」
「え?」
杏奈は雪華の視線の先をみた。
「出てくれば?」
雪華に促され、S組の校舎から出てきたのは、ウタちゃんだった。