私と御曹司の始まらない恋の一部始終
第28話 悪意の貼り紙
良いことばかり続かないなんて、ネガティブな発想だと思ってたけど、本当にそうなのかもしれない。
「佐藤杏奈は借金まみれ」「S組から出ていけ」
S組に登校した杏奈は、教室内に貼られたたくさんの紙に茫然とした。
クラスの生徒たちは遠巻きに杏奈を見て、目をそらしたり、ひそひそと何か話している。
誰がこんなことを?
「佐藤さん、この貼り紙に書かれていることは本当なの?」
女子生徒が一人、話しかけてきた。
みんなが杏奈の答えを聞こうと注目しているのがわかる。
本当だと答えるべき? でもそうしたら私、どうなっちゃうの?
「なんだこれは!」
振り向くと田鍋ケイイチロウ、三山タイシ、ウタちゃんが教室に入って来て貼り紙を見ていた。
「教室の景観が台無しだ、これでは授業に集中できない」
というと、田鍋ケイイチロウは貼り紙をどんどん剥がし始めた。
田鍋君……!
「学園の正式な掲示物ではないようですね、始業の前にすべて剥がしておきましょう」
三山タイシが続き、ウタちゃんも
「そうね、そうすべきだわ」と貼り紙をはがし始めた。
三山家の御曹司とウタちゃんが行動したことで、他の生徒も手伝い始め、教室からあっという間に貼り紙が消え去った。
「杏奈、気にすることは何もないぞ」
杏奈の横を通るとき田鍋ケイイチロウが小さな声で耳打ちした。かっと耳がほてる。みじめさと恥ずかしさに、嬉しさが重なって感情がぐちゃぐちゃだった。
でもいったい誰がこんなことを?
私の家に大きな借金があると知っているのは、田鍋君と三山君、それから昨日ウタちゃんと雪華とゆりぴょんに話しただけのはず。この中の誰かが他の人に話した? そんなはずない、信じていい人ばかりだ。
杏奈は正体の見えない相手に不安を覚えた。
休み時間。田鍋ケイイチロウこと三山大紫は、本物の圭一郎に指示をだしていた。
「今日俺たちは学園祭の報告会に出るため、一番に教室についた。そのとき貼り紙はなかった。つまりあの貼り紙は俺たちが職員室に行っている間に貼られたのだ。俺たちの後に登校したのはおそらく詩子だ」
「はい、善財さんは少し遅れて職員室にやっていらっしゃいました」
「詩子も貼り紙をみていないなら、あの貼り紙は7時33分から、そうだな45分ぐらいの間に貼られたとみていいだろう」
「さようでございますね」
「学園祭前にも杏奈をフェイク動画で陥れようとしたり、怪我をさせようとした事件があったな」
「今回も同じ人物でしょうか」
「可能性はある、さぐってみよう」
「(小声で)そこまでやられる必要がございますか。学園にまかせてもいいのでは?」
「杏奈が傷つくかもしれないのに何もしないでいられるか!」
つい声が大きくなってしまったことに気がつき、大紫は声を潜めた。学園内では大紫は執事の田鍋ケイイチロウなのだ。
「とにかく調べてみてほしい、頼むぞ」
「かしこまりました」
放課後、杏奈はウタちゃんと一緒に一般校舎につながる渡り廊下近くの中庭へ向かった。すでに到着して待っていたゆりぴょんに、今朝あったことを話す。
「ええ! そんなんひどすぎだよ。杏奈ちゃん大丈夫?」
「うん、みんながすぐに貼り紙をはがしてくれたし。でもさ……」
「なに?」
「みんなすごくいいお家の子たちだから直接は何も言われないけど、どこかよそよそしいっていうか、距離をとられてるのは感じた」
「あー」
「わ、わたしは、そんなことしていないわ」
「ありがとう、ウタちゃんが私のそばにいてくれて本当に心強いよ」
「でも誰がそんな貼り紙したの」
「そこなんだよね、うちの借金のことを知ってる人はあまりいないはずだから」
雪華は今日、楽曲制作したいと学園を休んでいるし、制服が違うゆりぴょんはS組校舎に入るのも難しい。となると、ウタちゃん、三山君、田鍋君……3人ともそんな人たちじゃない。
「ねえ、疑うつもりじゃないけど、私の家のこと誰かに話した?」
二人共、絶対にそんなことはいていないと言う。そうなるともうわからない。また何か嫌がらせが起きるかもしれないけど、じっと耐えるしかない。すごくつらいことだけど、私には田鍋君、三山君、ウタちゃん、ゆりぴょん、雪華と味方になってくれる人がいる。大丈夫、耐えられる。でも気持ちとは裏腹に、胸が騒いでしかたない。
「やはりここだったか」
振り向くと田鍋ケイイチロウと三山タイシがS組校舎から出てきたところだった。
「三山君、田鍋君、どうなさったの?」
思いがけぬ二人の登場にウタちゃんが驚いている。
「杏奈を探していたんだ、きっとここだろうと思った」
「え?」
「前もここにいたことがあったな」
桜月がフェイク動画を見せてワイヤー事故の犯人にされ、杏奈の机が廊下に出されていた日だ。
あの時ここで泣いていた杏奈を見つけたのは田鍋君だった。
また田鍋君が私を見つけてくれた。
「あの時は杏奈一人だったが、今日は友人と一緒なのだな、よかった」
杏奈はうなずいた。
そうだ、私は大丈夫。一人じゃない。
「ねえねえ……この二人はS組の人たち?」
ゆりぴょんが目をキラキラさせて聞いて来た。
「S組の三山タイシ君」
「初めまして、三山タイシと申します」
「三山タイシ……え、御曹司様っ?! イケメン~!!」
三山財閥の御曹司の登場にテンション爆上げなゆりぴょんが可愛すぎる。そうだよ!普通はこうだよね!と杏奈は可笑しくなってしまう。
「こちらは田鍋ケイイチロウ君」
「田鍋ケイイチロウだ。執事をしている」
「執事? うわー本当にいるんだあ! 田鍋君もすっごいイケてる! 最強バディみ強すぎる!」
「お、おう」
ゆりぴょんのミーハーぶりに圧倒された田鍋君も可愛すぎる。
三山君の方はいつも通り冷静に
「こちらの方は?」
と涼やかな顔で杏奈に聞いて来た。
「A組の清水百合さん、私のお友達なの」
「ゆりぴょんですっ!」
田鍋君が三山君を見た。三山君がしずかに頷く。それに呼応して田鍋君がゆりぴょんに改まった態度で向き合うと
「百合、申し訳ないが、S組内で話し合いを開くので、杏奈を連れていってもいいだろうか」
「ゆ、百合……」
突然の呼び捨てに、今度はゆりぴょんがおかしくなってしまった。
「田鍋君はいつもこうだから気にしないで!」
「ゆりぴょんちゃん、大丈夫? びっくりなさるのも無理はないわ……」
杏奈とウタちゃんがフォローして、ようやくゆりぴょんが「だ、だいじょぶ」と持ち直した。
田鍋君にはいつか注意しなくちゃいけない。
ところで。
「話し合いって?」
「それはあとで話す」
「わたしも行ったほうが良いのかしら?」
「詩子にも参加してもらいたい」
S組内の話し合い……今朝の貼り紙と関係しているのだろうか。
「二人共、いってきなよ! 御曹司様と執事くんを待たせちゃダメ!」
ゆりぴょんの明るい笑顔にはやっぱり救われる。
「じゃあ行ってくる。ゆりぴょん、また今度ね!」
杏奈はウタちゃんと一緒に、田鍋君たちについていった。
ここで話し合い……?
田鍋君たちに連れて来られたのは、教室ではなく、S組保護者用の特別応接室だった。
杏奈とウタちゃん、田鍋君と三山君以外はまだ誰もいない。これはどういうことなんだろう。
ドアがあいて担任の門倉先生が入って来た。
「遅くなって申し訳ない。おや、善財さんに佐藤さんもいるのか」
門倉先生はソファに深く腰掛けると、
「で、相談というのは?」と三山君を見た。
「今朝、このような貼り紙が教室に貼られていたことはご存知でしょうか」
三山君が数枚の貼り紙をテーブルに並べた。
「佐藤杏奈は借金まみれ」「S組から出ていけ」
杏奈は目を伏せた。
「なんだいこれは、初めてみたよ。こんなものが貼ってあったのか」
「はい。我々で授業が始まる前にすべて剥がしました」
「そうか、それはご苦労だったね」
三山君が田鍋君をみた。田鍋ケイイチロウはうなずくと、
「聞き方を変えるしかなさそうだ。門倉先生、どうしてこのような貼り紙を貼ったのか、答えていただきたい」
毅然とした態度で言った。
「佐藤杏奈は借金まみれ」「S組から出ていけ」
S組に登校した杏奈は、教室内に貼られたたくさんの紙に茫然とした。
クラスの生徒たちは遠巻きに杏奈を見て、目をそらしたり、ひそひそと何か話している。
誰がこんなことを?
「佐藤さん、この貼り紙に書かれていることは本当なの?」
女子生徒が一人、話しかけてきた。
みんなが杏奈の答えを聞こうと注目しているのがわかる。
本当だと答えるべき? でもそうしたら私、どうなっちゃうの?
「なんだこれは!」
振り向くと田鍋ケイイチロウ、三山タイシ、ウタちゃんが教室に入って来て貼り紙を見ていた。
「教室の景観が台無しだ、これでは授業に集中できない」
というと、田鍋ケイイチロウは貼り紙をどんどん剥がし始めた。
田鍋君……!
「学園の正式な掲示物ではないようですね、始業の前にすべて剥がしておきましょう」
三山タイシが続き、ウタちゃんも
「そうね、そうすべきだわ」と貼り紙をはがし始めた。
三山家の御曹司とウタちゃんが行動したことで、他の生徒も手伝い始め、教室からあっという間に貼り紙が消え去った。
「杏奈、気にすることは何もないぞ」
杏奈の横を通るとき田鍋ケイイチロウが小さな声で耳打ちした。かっと耳がほてる。みじめさと恥ずかしさに、嬉しさが重なって感情がぐちゃぐちゃだった。
でもいったい誰がこんなことを?
私の家に大きな借金があると知っているのは、田鍋君と三山君、それから昨日ウタちゃんと雪華とゆりぴょんに話しただけのはず。この中の誰かが他の人に話した? そんなはずない、信じていい人ばかりだ。
杏奈は正体の見えない相手に不安を覚えた。
休み時間。田鍋ケイイチロウこと三山大紫は、本物の圭一郎に指示をだしていた。
「今日俺たちは学園祭の報告会に出るため、一番に教室についた。そのとき貼り紙はなかった。つまりあの貼り紙は俺たちが職員室に行っている間に貼られたのだ。俺たちの後に登校したのはおそらく詩子だ」
「はい、善財さんは少し遅れて職員室にやっていらっしゃいました」
「詩子も貼り紙をみていないなら、あの貼り紙は7時33分から、そうだな45分ぐらいの間に貼られたとみていいだろう」
「さようでございますね」
「学園祭前にも杏奈をフェイク動画で陥れようとしたり、怪我をさせようとした事件があったな」
「今回も同じ人物でしょうか」
「可能性はある、さぐってみよう」
「(小声で)そこまでやられる必要がございますか。学園にまかせてもいいのでは?」
「杏奈が傷つくかもしれないのに何もしないでいられるか!」
つい声が大きくなってしまったことに気がつき、大紫は声を潜めた。学園内では大紫は執事の田鍋ケイイチロウなのだ。
「とにかく調べてみてほしい、頼むぞ」
「かしこまりました」
放課後、杏奈はウタちゃんと一緒に一般校舎につながる渡り廊下近くの中庭へ向かった。すでに到着して待っていたゆりぴょんに、今朝あったことを話す。
「ええ! そんなんひどすぎだよ。杏奈ちゃん大丈夫?」
「うん、みんながすぐに貼り紙をはがしてくれたし。でもさ……」
「なに?」
「みんなすごくいいお家の子たちだから直接は何も言われないけど、どこかよそよそしいっていうか、距離をとられてるのは感じた」
「あー」
「わ、わたしは、そんなことしていないわ」
「ありがとう、ウタちゃんが私のそばにいてくれて本当に心強いよ」
「でも誰がそんな貼り紙したの」
「そこなんだよね、うちの借金のことを知ってる人はあまりいないはずだから」
雪華は今日、楽曲制作したいと学園を休んでいるし、制服が違うゆりぴょんはS組校舎に入るのも難しい。となると、ウタちゃん、三山君、田鍋君……3人ともそんな人たちじゃない。
「ねえ、疑うつもりじゃないけど、私の家のこと誰かに話した?」
二人共、絶対にそんなことはいていないと言う。そうなるともうわからない。また何か嫌がらせが起きるかもしれないけど、じっと耐えるしかない。すごくつらいことだけど、私には田鍋君、三山君、ウタちゃん、ゆりぴょん、雪華と味方になってくれる人がいる。大丈夫、耐えられる。でも気持ちとは裏腹に、胸が騒いでしかたない。
「やはりここだったか」
振り向くと田鍋ケイイチロウと三山タイシがS組校舎から出てきたところだった。
「三山君、田鍋君、どうなさったの?」
思いがけぬ二人の登場にウタちゃんが驚いている。
「杏奈を探していたんだ、きっとここだろうと思った」
「え?」
「前もここにいたことがあったな」
桜月がフェイク動画を見せてワイヤー事故の犯人にされ、杏奈の机が廊下に出されていた日だ。
あの時ここで泣いていた杏奈を見つけたのは田鍋君だった。
また田鍋君が私を見つけてくれた。
「あの時は杏奈一人だったが、今日は友人と一緒なのだな、よかった」
杏奈はうなずいた。
そうだ、私は大丈夫。一人じゃない。
「ねえねえ……この二人はS組の人たち?」
ゆりぴょんが目をキラキラさせて聞いて来た。
「S組の三山タイシ君」
「初めまして、三山タイシと申します」
「三山タイシ……え、御曹司様っ?! イケメン~!!」
三山財閥の御曹司の登場にテンション爆上げなゆりぴょんが可愛すぎる。そうだよ!普通はこうだよね!と杏奈は可笑しくなってしまう。
「こちらは田鍋ケイイチロウ君」
「田鍋ケイイチロウだ。執事をしている」
「執事? うわー本当にいるんだあ! 田鍋君もすっごいイケてる! 最強バディみ強すぎる!」
「お、おう」
ゆりぴょんのミーハーぶりに圧倒された田鍋君も可愛すぎる。
三山君の方はいつも通り冷静に
「こちらの方は?」
と涼やかな顔で杏奈に聞いて来た。
「A組の清水百合さん、私のお友達なの」
「ゆりぴょんですっ!」
田鍋君が三山君を見た。三山君がしずかに頷く。それに呼応して田鍋君がゆりぴょんに改まった態度で向き合うと
「百合、申し訳ないが、S組内で話し合いを開くので、杏奈を連れていってもいいだろうか」
「ゆ、百合……」
突然の呼び捨てに、今度はゆりぴょんがおかしくなってしまった。
「田鍋君はいつもこうだから気にしないで!」
「ゆりぴょんちゃん、大丈夫? びっくりなさるのも無理はないわ……」
杏奈とウタちゃんがフォローして、ようやくゆりぴょんが「だ、だいじょぶ」と持ち直した。
田鍋君にはいつか注意しなくちゃいけない。
ところで。
「話し合いって?」
「それはあとで話す」
「わたしも行ったほうが良いのかしら?」
「詩子にも参加してもらいたい」
S組内の話し合い……今朝の貼り紙と関係しているのだろうか。
「二人共、いってきなよ! 御曹司様と執事くんを待たせちゃダメ!」
ゆりぴょんの明るい笑顔にはやっぱり救われる。
「じゃあ行ってくる。ゆりぴょん、また今度ね!」
杏奈はウタちゃんと一緒に、田鍋君たちについていった。
ここで話し合い……?
田鍋君たちに連れて来られたのは、教室ではなく、S組保護者用の特別応接室だった。
杏奈とウタちゃん、田鍋君と三山君以外はまだ誰もいない。これはどういうことなんだろう。
ドアがあいて担任の門倉先生が入って来た。
「遅くなって申し訳ない。おや、善財さんに佐藤さんもいるのか」
門倉先生はソファに深く腰掛けると、
「で、相談というのは?」と三山君を見た。
「今朝、このような貼り紙が教室に貼られていたことはご存知でしょうか」
三山君が数枚の貼り紙をテーブルに並べた。
「佐藤杏奈は借金まみれ」「S組から出ていけ」
杏奈は目を伏せた。
「なんだいこれは、初めてみたよ。こんなものが貼ってあったのか」
「はい。我々で授業が始まる前にすべて剥がしました」
「そうか、それはご苦労だったね」
三山君が田鍋君をみた。田鍋ケイイチロウはうなずくと、
「聞き方を変えるしかなさそうだ。門倉先生、どうしてこのような貼り紙を貼ったのか、答えていただきたい」
毅然とした態度で言った。