(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー

11話 眠りについたお姫様

 断ろうと思えば断れたし、きっと白雪くんだって私の気持ちを尊重してくれた、と思う。
 それでも私は今、白雪くんの家に来ていた。
「ここ、オレの家……オレは、ソファ使うから、りんごさんは……ベッド使って、嫌じゃ、なければ……だけど……」
「……」
 白雪くんの家は居酒屋から電車で少しのところにある普通のよくあるアパートだった。
 白雪姫だからってまさか本当にお城に住んでいるなんて思っていたわけではなかったけど、こうして家の中に入ってみれば男子大学生の一人暮らしって感じがすごいして、やっぱり少しだけギャップを感じる。
「……りんごさん?」
「え、あ、ごめん……」
 白雪くんの説明もそぞろに私は壁じゅうに彩るように貼り付けられた写真を見てしまっていた。
 あの一言をきっかけに名前で呼ばれるようになったのは少しだけ気恥ずかしいけど、嫌な感じは全くしなくて、むしろもっと、そう呼んで欲しいと思ってしまうくらいには心地良い。
「いや、大丈夫……そんなに、気になる……?」
「うん、たくさん貼ってあるから」
 白雪くんは言いながら私の横に立って一緒に写真に視線を向ける。
「……カメラ、元々は、親父の趣味……だった、これも、貰ったんだ」
 言いながら白雪くんは棚の上に置いてあるいつものカメラを優しく撫でる。
「だから年期が入ってたんだね、白雪くんのカメラ」
 初めて見た時から年期が入っているとは思っていたけど、白雪くんのお父さんの物なのだとしたら納得だ。
「これは、保育園の時……良二くんと、出会ったのも……この頃……」
 白雪くんは言いながら一枚の写真をとんっと叩く。
「保育園からの幼馴染みなんだね、どうりで仲良しなわけだ」
 そこでは二人の少年が元気に笑っていて、二人ともしっかりと面影がある。
「こっちは、小学生の頃、苛められたりもした……けど、楽しかった……」
 そのまま白雪くんは次の写真へと指を滑らせる。
「運動会の写真かな、この頃は華奢なほうだったんだね」
 小学生の白雪くんは、その年代から見ても華奢なほうで、こう思うのは悪いかもしれないけど、白雪姫という名前がぴったりの男の子だった。
 優しそうな瞳は、今も変わってないと思う。
「これは、中学、この頃から、背が伸びて……成長痛がひどかった」
 そして白雪くんはそのまま次の写真を撫でる。
「こんなに大きくなるんだもん、そりゃ痛いよ」
 私は身長が高いほうではないから成長痛もそこまでじゃなかった。
 だけど白雪くん程身長があればきっとそれは痛かっただろう。
「……これは、この間りんごさんと撮ったやつ、一番新しい、思い出」
 そして、白雪くんの指先は一番目立つところに貼り付けられている一枚の空の写真に行き着くと、そこでピタリと、止まった。
 そして指はそのままにこちらを向くと白雪くんは優しく、本当に触れるように、私の頭に優しく口づけを落とした。
「っ……白、雪、くん……?」
 私は慌てて頭を押さえて途切れ途切れに名前を呼ぶ。
 ダメだ、意識したらダメ。
 意識したら最後、おそらくパニックになる。
「これからは、姫って呼んで欲しい、ダメ、かな……」
「え、あ……えっと……え……?」
 だけどそんな私の気持ちにはお構い無しに白雪くんはそう畳み掛けてくる。
 あれ、白雪くんって、こんなこと言う人だっただろうか。
 お酒は、飲んでいなかったと思うけど。
 いや、確か、一杯だけだけど最初の乾杯の時に飲まされていたような気がしないでもない。
「……実はずっと、知ってた、君が声をかけてくれるより、前から……初めて見たのは、展覧会で写真見てから、すぐ……気持ち悪いかも、しれないけど、探したんだ……こんな優しい、写真を撮ったのが誰なのか、知りたくて……」
「そう、だったんだ……」
 知らなかった。
 まぁ、知ってたら逆に怖いけど。
 私だけが、白雪くんのことを最初から知っていたと思っていたから、まさか白雪くんも私のことをそこまで深く認識していたのだという事実に動悸がする。
「だけど、声は……かけられなかった、勇気がなかったから、だからあの日……声をかけられて、嬉かったし、このチャンスを逃したくないとも、思った」
「……」
 白雪くんは言いながら私の頬にそっと手を添える。
 そして 
「あの時、自分から引いてしまわなくて、本当によかったと思ってる、それじゃ、おやすみ」
 言いたいことだけ言いきると一度優しく私を抱き締めて、それから早々にソファに横になってしまった。
「え……」
 つい、間の抜けた声が漏れる。
 これって、そういう展開だったのでは?
 っていうか帰したくないってそういう時に使うものでは……
 私だって別にただほいほいついてきたわけじゃない。
 何か、あるかもしれないとだって考えなかったわけじゃない。
「し、しらゆ……姫、くん?」
 私はいつもの癖で白雪くんと呼びそうになりながらソファの姫くんを覗き込む。
「……姫くん、って、本当にもう寝てる」
 そこにはとてもすやすやと眠る姫くんがいて……
「私は、どうしたらいいのこれ……」
 頭にキスされたり、抱き締められたりで色々と意識してしまった私を置き去りにぐっすり眠る姫くんが今は少しだけ恨めしかった
「……もしかしたら、なんてね」
 白雪姫だから、もしかしたらキスで起きるかもしれないな、なんて少しだけ考えたけど、さすがにそれは、出来そうになかった。
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