勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

16.真相

「それで、一体どういう風の吹き回しなのよ!」
 わたしの首元に揺れる青い石のネックレスを睨み付けながら、メリ姉は言った。

「どういう風、と言われましても」

 自分でもどうしてこうなったのかなんて分からない。いつの間にか嵐のようなものに巻き込まれていて、こうなった、としか言いようがない。

 そういえば、嵐と言えばもう一つ。

「しかも、なに! ちゃっかり成人の儀まで済ませてるじゃない、あんた! お姉ちゃんに分かるように説明しなさい」

「べ、別にちゃっかりじゃない、もん……」

 そう、あのままアルフレッド様とわたしはキスだけでは終わらなかったわけで。
 アルフレッド様は、わたしを抱きしめたまま離してくれなかった。

 ――俺が君をどれだけ愛しているのか、きちんと伝えさせてくれ。

 果たしてこんなことをあの熱っぽい瞳で言われて、断れる女がいるだろうか。いたらぜひ、お会いしたいものだ。

 そしてもう一度嵐に飛び込む羽目になった。何度も何度も繰り返された「愛している」も、わたしに触れるその手も、アルフレッド様の愛を確かに教えてくれた。

「ふうん。あんたはそれでよかったのね?」
「うん」

 これは確かにわたしの意志だと、自信を持って言える。

「なら、いいわ」

 何か言いたげな紫色の目が、わたしを見つめる。ただそれ以上はメリ姉も何も聞いてはこなくて、ゆるりと薬局のカウンターの上で頬杖をついた。

 こつんと、その肘がフラスコに触れる。

「あら、なにかしら。これ」
「あ」

 作った惚れ薬の残りを置きっぱなしにしてしまっていた。

「あのね、その、メリ姉、それは」
 どうしてわたしはこう、最後の最後に詰めが甘いのだろう。これではわたしが何をしたのか、火を見るより明らかだ。

「……薬? でもちょっと色が違う……これは多分」

 ゆらゆらと見極めるようにフラスコを揺らしたかと思うと、おもむろに人差し指でその薬を掬ってぺろりと舐めた。

「ちょっとメリ姉!」

 何しろそれはあのアルフレッド様を一瞬で情熱的に変えてしまった惚れ薬であるので。魔女であるメリ姉はある程度耐性があるだろうけど、それでも。

 おろおろするわたしを他所に、メリ姉は何かに気づいたようにくすりと笑った。

「そういうこと、ね」

 そして、ぺろりと唇に残った薬を舐めとってにやりと妖艶に口角を上げる。
 どういうことだろう。わたしにはさっぱり分からないのに、メリ姉は何かに気づいたようだ。
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