ハイスペ御曹司で年下幼馴染の山田一郎が誘ってくる送迎を断ったら、とんでもない目に遭った件

回想 (後)

そろそろコートを返そうと思いはじめたとき、私は怪しい男が車道から自分をじっと見ていることに気がついた。

一郎がいつも警護の者達に囲まれていたから、私にはどういうことなのかピンときた。

それに私は男の子のような見た目をしていたから、きっと一郎本人だと思われているに違いなかった。


(このままコートを返したら、一郎が危ない! なんとかしなくちゃ……!)


しかし幼い私に何かできるわけもなく、一郎がトイレに行った(すき)に、あの誘拐未遂事件が起きてしまったのだ。

私は男に抱え上げられ、そのまま車に連れ込まれそうになった。
戻ってきた一郎はその光景に驚き、私を守ろうと必死で男の脚に飛びつき噛みついた。


「やめろ! おまえがねらってるのはボクだろ!? マリちゃんを、マリちゃんをはなせーっ!!」


――その後、山田家の警護の者によって私たちは難を逃れることができた。
そしてなにより一郎のおかげで、私は車に連れ込まれずに済んだのだった。

一郎は自分だって怖かっただろうに、泣きじゃくりながら私に謝った。


「ごめんね、ボクのせいで……。ボク弱くて、まもれなくって、ごめんね。大きくなったら、ぜったいにマリちゃんをまもってみせるから……!」


この事件は私たちの苦い思い出。
だけどこれがきっかけで、弟分の一郎が私の中でちょっと違う存在になったことは確かだった。


 ***


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