進路指導室で、愛を叫んで
 その日から、俺は毎朝先輩と花壇の水やりをした。

 放課後はだいたい中庭で待ち合わせて、花壇の手入れ。

 水やりをするときの先輩の後ろ姿はやっぱり綺麗で、キラキラして見えて、いつも眩しい。

 ときどき美園先生も来て、次に植える苗や球根について、みんなで相談したりもする。

 部活中以外にも、ごく稀に先輩と会えることがある。


「あ、藤宮先輩!」

「須藤くん。今から体育?」


 初夏のその日、昇降口で先輩と会った。

 先輩は体操着姿で、髪を高い位置で結んでいる。

 汗でしっとりとした前髪が、頬にぴたりと張り付いている。


「はい。週末の体育祭の練習です。先輩もですか?」


 先輩の目元にかかった髪を、思わずそっと指先で払った。

 すると、先輩は真っ赤になって固まってしまった。


「先輩?」

「す、須藤くん!? 人前でそういうことしないでくれる!?」

「……じゃあ、次から二人きりのときにだけ、します」

「嬉しそうにしないでよ! もー!」


 先輩は走って行ってしまった。

 しまった、体操着姿かわいいって言うの忘れた……!


「須藤? お前、いつもそんな感じ?」


 隣にいた由紀が半笑いで言う。


「まさか。部活中はもうちょっとちゃんと褒めるし、かわいいって必ず言う。今日は心の準備ができてなくて、体操着を褒めそびれた。追いかけてきていい?」

「授業に間に合わなくなるだろうが。行くぞ」


 由紀に引き摺られて校庭に向かう。
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