契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
「彼女は『那湖ちゃんには申し訳ないことをした』と……」


 ところが、身構えていた私に打ち明けられたのは、予想とは反対の言葉だった。


「紘奈さんが……?」


 にわかには信じられないけれど、彼が大きく頷いた。


「『元妻として気づけなかったことや、那湖ちゃんを疑って助けられなかったことを悔やんでる』と伝言された。『もし許してくれるなら、直接会って話したい』とも」
「そんな……」


 申し訳ないことをしたのも、紘奈さんに対しての後悔があるのも、私の方だ。


(紘奈さんはなにも悪くないのに、こんな風に言わせてしまうなんて……)


悔やみ切れない気持ちでいると、侑李さんが優しく微笑んだ。


「那湖も後悔してるなら、一度会ってみるといいんじゃないか。きっと、紘奈さんも喜ぶはずだ」
「はい……。近いうちに連絡してみます」
「ああ」


 彼に背中を押され、紘奈さんに真実を話そうと決める。
 なにも言えないまま退職してしまったことも含め、謝りたかった。


「この話を踏まえて、那湖はどうしたい?」


 そう尋ねられた時、私の中で瞬時に答えは出た。
 もっと言うと、ずっとそう思っていたからこそ、そのひとつしか浮かばなかった。


「きちんと過去と決別したいです。まだなにをどうすればいいのかわかりませんが、力を貸していただけますか……?」
「当然だ。俺が守るって言っただろ」


 即答してくれた侑李さんが、力強い瞳で私を見つめて微笑む。
 彼がいてくれるのなら怖くない。
 そう感じた私は、過去と向き合い、中郷課長の件を終わらせようと決めた——。

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