契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ~ママになっても愛し尽くされています~
「その先輩もさ、ちゃんと話せばわかってくれないかな? だって、那湖が慕ってた先輩なのに……那湖はなにも悪くないのに……あの男のせいで誤解されたままなんて悲しいよ……」
「深雪……」


 紘奈さんのことは、心から尊敬していた。
 美人で、優しくて、仕事ができる。そんな彼女に憧れている女性社員は多く、私だってそうだ。
 紘奈さんは色々な相談に乗ってくれたし、おいしいお店を教えてくれたり誕生日を祝ってもらったりと、ずっと可愛がってもらった。


 それなのに、私は恩返しをするどころか傷つけてしまったのだ。
 せめてこれ以上、彼女に悲しい思いをさせたくない。


「なんでも正直に言えばいいってものじゃないし、言わなくていいこともあるよ。でも、那湖だって傷ついたし、仕事も辞めることになったのに……」
「でも、おかげでさっちゃんのところで働けることになったし、私は今の仕事の方が楽しいから大丈夫だよ」


 これは本心だ。
 就職したからこそわかったことだけれど、私は家政婦の仕事が好きで、前の会社にいた時よりもずっとやり甲斐を感じていた。


「那湖がそう言うなら、私はもうなにも言わないけど……。でも、あの男のことでなにかあったら、ちゃんと言ってよ? 解決はできないけど、ひとりで悩まないでね」
「ありがとう」


 笑顔を見せると、深雪の表情にもわずかに笑みが戻った。
 その後、仕切り直すようにティラミスを頼み、私たちは満腹でお店を後にした。

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