こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
選ばないといけないのか?
心当たりと言われても、とジーナはこれまでのハイネとの日々を思い出した。その多くのことがあり過ぎた日々。
「……たくさんあって分からない」
「それもそうですね。でも何が一番の原因かひとつ挙げられませんか?」
ひとつ? 原因と言われてもハイネはいったいなにで怒ってるんだ? とジーナには分かりにくかった。
「しょっちゅう泣くが」
「私はあなた以外の人の前では泣きませんよ」
しまった口に出てしまった。
「そう言うのなら私はハイネ以外の人を泣かせたりはしない」
「じゃあここを土台としましょう。私はどうしてあなたによく泣かされるのでしょうか?」
「殴ったり叩いたりはしていないのだけど……」
「違う意味ではそれをやっているのですけどね。いつもしょっちゅう」
分からない。いくらこうやって促され静かに待たれ赤い瞳で見つめられても、分からないものは分からない。
だがここまで言われるのはそれはきっと簡単なものなのだろう、とジーナは掴んではいないものの掴む場所がわかった気がした。
誰にでも具わっているもの、だけど私にはないもの……それは、そうであるから。
「……何かが足りないのだろうな」
大きなハイネの瞳が、膨らんだ。
「もしくは欠けている。そのせいでそこがハイネに引っ掛って叩いている形になってしまう」
赤い瞳は光も帯びてきているように見えた。
「まぁこんなことは言っている私でさえ分からないのにハイネには分かるはずもないだろうが」
そう言うとハイネは苦笑いし一歩下がる。
「いや、そういうことを聞いたわけじゃないんですが、いいです。分からないなりによく考えていると感じられたので、一応合格とします」
何に対して合格なのかと不明ななか、ジーナは容量が半分以上になった花壇の中に土袋を入れて空け、また戻ろうとすると呼び止められる。
「休憩をしましょう、ここへどうぞ」
ハイネが差し示した場所は龍の間の中央の机でそれは正式なものである。
「座っていいのかこれ? 関係者以外は駄目なような気も」
「こんなときだけ常識人の振りをしないでくださいよ非常識人。龍身用の椅子にさえ座らなければ構いませんよ」
指差されているのは当然ハイネの隣であった。席を離してくれないのなら休憩には、ならない。
きっと休憩時間中もまた奇妙な問答で苦しめられるのか、とそんな予感しかしないもののジーナは座るしかなかった。
その冷たい椅子。休めなさそう。
「どうぞお茶です」
不安になる茶、変なやさしさ。何を狙っている。
「ありがとう。冷えた身体が温まるよ」
「今日は温かいしあなたは肉体労働をして身体が温まっているはずなのに、いったいなにのせいで冷えたのですか?」
ハイネのせいだよと心の中で呟くと当の本人が口真似をする。
「ハイネのせいだよ、どうです似てますか」
「おぉ似ているな。よくそんな低い声が出せるもんだ」
「あの、反応するのはそこだけですかぁ?」
「どうせ心は読まれているし、そこはまぁ」
「なにがそこはまぁですか本当にあなたは。そういえばさっき関係者以外とか口ごたえしていましたが、あなたは関係者ですよね。バルツ将軍から聞きましたよ。龍の護衛に復帰したいらしいですね」
驚いて右を向くとハイネは珍しく顔を背けていた。珍しい、こういう時は絶対に顔と目を見ているというのに。
「そうだ。承認されればの話だが」
「承認されるに、決まっているじゃないですか」
なぜ? と思うよりもその言葉の調子にジーナは混乱した。明らかに怒りを滲ませたその響き。ハイネは護衛復帰に反対なのか?
「ハイネは反対なのか?」
「私はそんなこと言っていませんけど」
では違うのか。だが言ってはいないがそう聞こえ尋ね否定された場合、こちらの勘違いで済むことなのか?
「じゃあ賛成してくれるのか?」
「……その前に聞きたいことがありますがいいですよね? 一度強引に辞めたというのに龍の護衛に戻るのは……いやいいです前の話は。改めましてこうです。あなたは龍の護衛にそんなになりたいのはなんでです?」
それだけは言うことはできない、とジーナは心の声すら黙らせた。嘘も言えなかった。ハイネにはきっと見抜かれると。
完全に口を閉ざしたままハイネも微動だにせずにあっちを向いていた。その方向には何も無いのに、いったいに何を見ているのか。
「……にいたいから、ですよね」
消え入りそうな声が聞こえてきた。漏れ出した心の声みたいに掠れた小声が、救いを求める声のようでありジーナは消える前に拾った。
「いまなんと言ったんだ」
「ハイネさんと一緒にいたいから、ですよね」
そんなことは、あ……ジーナは頭の中が真っ白となり、言葉がなにも浮かばない。
否定も肯定という感情も現れず感じるのは白い空白による欠落感。
それは言葉となって口から出ることができずにいるも、ハイネは聞きかえさずに勝手に話を進める。
「はい違いますよね。分かっていました。じゃあ、あの、あのですね、その……」
つっかえながら転びながら震えながら、とハイネには珍しい口調で呼吸と言葉を交互にしながら言い、沈黙。
表情が見えないこの空間からは分かるものは何も無く、考えるものもなにもないなかでジーナは次の言葉を停止した状態の頭で待ち続けると、また声がした。
した、気がした。聞こえた、気がした。
文章が壊れ途切れ千切れたように、単語が散らばりジーナは手に取れるものだけを消える前に手に乗せ、読み、すぐにわかった。
「ヘイム様と一緒にいたいな、ですよね」
本当にそう言ったのか? とジーナは確かめようとして聞こうとするがハイネは間を置かずにもう一歩踏み込んできた。
どっちですか?
そこに声があったのか宙に撒かれたような言葉は掴めず拾えないままジーナは答えた。
選ばないといけないのか?
ハイネの後頭部が反応し振り返りそうになるも、戻り首を振った。何かが戻ったようにジーナは息をつき意識は椅子に戻った。
戻った? 自分が立ち上がってハイネのもとに近づいたことにジーナは座った時に気が付いた。いつの間に? そしていったい何をしようとしたのか?
疑問が起こるも顔をあげると、ハイネがこちらを向いていた。そこには疲労しきった顔があった。
髪をかき上げ息を吐く姿を見ると長らく顔を見ていないどころか会ってもいないようにも感じた。遠くに行ったような、この距離感は?
「明日はちょっと用事がありましてここ休みますね」
「それは突然だな。何かあるのか?」
聞くとハイネは妙な笑顔をしてから答えた。
「デートです」
瞳の色はいつも通りだなとジーナはハイネの眼を見て感じた。
「それは良い話だな」
「そうですよね。前々から誘われていまして。そういうのは久しぶりなので楽しみです」
「久しぶり?」
どうしてかジーナの腹はすこし熱く痛くなった。
「そうですよ久しぶりに私は男の人とデートをするのです」
ハイネはさっきまでとは大きく違い一言一言はっきりとゆっくり、相手に伝わるように言っているとジーナには感じられた。
「それは楽しそうだ。でも街はまだ復旧中だし買い物をするのは難しいのでは」
なんでこんな余計なことを言う、とジーナは自分の口が勝手に動いた後に苛立った。
「デートというのは別にそういう目的があってするのではないのですよ。会いたいから、会う。これが根本にあってあとは正直なんでもよくて成り行きで構わないのです」
なんだかこれ以上話したくないなとジーナは思った。足が変に縦に揺れる。
「まぁ頑張って楽しんでくればいいんじゃないのか」
なんて不必要な返事。
「はい。明日が楽しみです」
もう返事はしない、と茶を飲もうとするも、いつの間に茶が無くなっていることにジーナは気づいた。
いつ呑んだ? たしかにさっきから口はつけていたが、こんなに早くなくなるなんて……
「さっきから空のコップをなんども口に運んでいましたが、どうしました?」
いまではない、のか? しかも気付かれそのうえ見られていた。
「なにか考え事でも? 聞きますよ」
「いや考えてはいないよ」
「上の空でしたよ。私が見る限りずっと」
放心? そんなことあるわけないし、私は何も、焦ってなんていない。
「誰って聞かないのですか?」
「えっ?」
突拍子もない言葉がジーナの額に当たった。
「デートの相手は誰なのか、気にならないのですか? 普通は聞きますよ」
「ハイネの例の取り巻きたちだろ」
「取り巻き? 昔からの友達ですよ。悪意のある言い方ですね。彼はとても良い人なのですからね」
聞くやいなや何かが切れた反動でか、ジーナはその場で立ち上がった。
「帰ります。じゃあ明後日にお願いします……ハイネさん」
ジーナはハイネの顔をジッと見たもののその表情は変えずに微笑んだ。
「お疲れ様でしたジーナさん」
「……たくさんあって分からない」
「それもそうですね。でも何が一番の原因かひとつ挙げられませんか?」
ひとつ? 原因と言われてもハイネはいったいなにで怒ってるんだ? とジーナには分かりにくかった。
「しょっちゅう泣くが」
「私はあなた以外の人の前では泣きませんよ」
しまった口に出てしまった。
「そう言うのなら私はハイネ以外の人を泣かせたりはしない」
「じゃあここを土台としましょう。私はどうしてあなたによく泣かされるのでしょうか?」
「殴ったり叩いたりはしていないのだけど……」
「違う意味ではそれをやっているのですけどね。いつもしょっちゅう」
分からない。いくらこうやって促され静かに待たれ赤い瞳で見つめられても、分からないものは分からない。
だがここまで言われるのはそれはきっと簡単なものなのだろう、とジーナは掴んではいないものの掴む場所がわかった気がした。
誰にでも具わっているもの、だけど私にはないもの……それは、そうであるから。
「……何かが足りないのだろうな」
大きなハイネの瞳が、膨らんだ。
「もしくは欠けている。そのせいでそこがハイネに引っ掛って叩いている形になってしまう」
赤い瞳は光も帯びてきているように見えた。
「まぁこんなことは言っている私でさえ分からないのにハイネには分かるはずもないだろうが」
そう言うとハイネは苦笑いし一歩下がる。
「いや、そういうことを聞いたわけじゃないんですが、いいです。分からないなりによく考えていると感じられたので、一応合格とします」
何に対して合格なのかと不明ななか、ジーナは容量が半分以上になった花壇の中に土袋を入れて空け、また戻ろうとすると呼び止められる。
「休憩をしましょう、ここへどうぞ」
ハイネが差し示した場所は龍の間の中央の机でそれは正式なものである。
「座っていいのかこれ? 関係者以外は駄目なような気も」
「こんなときだけ常識人の振りをしないでくださいよ非常識人。龍身用の椅子にさえ座らなければ構いませんよ」
指差されているのは当然ハイネの隣であった。席を離してくれないのなら休憩には、ならない。
きっと休憩時間中もまた奇妙な問答で苦しめられるのか、とそんな予感しかしないもののジーナは座るしかなかった。
その冷たい椅子。休めなさそう。
「どうぞお茶です」
不安になる茶、変なやさしさ。何を狙っている。
「ありがとう。冷えた身体が温まるよ」
「今日は温かいしあなたは肉体労働をして身体が温まっているはずなのに、いったいなにのせいで冷えたのですか?」
ハイネのせいだよと心の中で呟くと当の本人が口真似をする。
「ハイネのせいだよ、どうです似てますか」
「おぉ似ているな。よくそんな低い声が出せるもんだ」
「あの、反応するのはそこだけですかぁ?」
「どうせ心は読まれているし、そこはまぁ」
「なにがそこはまぁですか本当にあなたは。そういえばさっき関係者以外とか口ごたえしていましたが、あなたは関係者ですよね。バルツ将軍から聞きましたよ。龍の護衛に復帰したいらしいですね」
驚いて右を向くとハイネは珍しく顔を背けていた。珍しい、こういう時は絶対に顔と目を見ているというのに。
「そうだ。承認されればの話だが」
「承認されるに、決まっているじゃないですか」
なぜ? と思うよりもその言葉の調子にジーナは混乱した。明らかに怒りを滲ませたその響き。ハイネは護衛復帰に反対なのか?
「ハイネは反対なのか?」
「私はそんなこと言っていませんけど」
では違うのか。だが言ってはいないがそう聞こえ尋ね否定された場合、こちらの勘違いで済むことなのか?
「じゃあ賛成してくれるのか?」
「……その前に聞きたいことがありますがいいですよね? 一度強引に辞めたというのに龍の護衛に戻るのは……いやいいです前の話は。改めましてこうです。あなたは龍の護衛にそんなになりたいのはなんでです?」
それだけは言うことはできない、とジーナは心の声すら黙らせた。嘘も言えなかった。ハイネにはきっと見抜かれると。
完全に口を閉ざしたままハイネも微動だにせずにあっちを向いていた。その方向には何も無いのに、いったいに何を見ているのか。
「……にいたいから、ですよね」
消え入りそうな声が聞こえてきた。漏れ出した心の声みたいに掠れた小声が、救いを求める声のようでありジーナは消える前に拾った。
「いまなんと言ったんだ」
「ハイネさんと一緒にいたいから、ですよね」
そんなことは、あ……ジーナは頭の中が真っ白となり、言葉がなにも浮かばない。
否定も肯定という感情も現れず感じるのは白い空白による欠落感。
それは言葉となって口から出ることができずにいるも、ハイネは聞きかえさずに勝手に話を進める。
「はい違いますよね。分かっていました。じゃあ、あの、あのですね、その……」
つっかえながら転びながら震えながら、とハイネには珍しい口調で呼吸と言葉を交互にしながら言い、沈黙。
表情が見えないこの空間からは分かるものは何も無く、考えるものもなにもないなかでジーナは次の言葉を停止した状態の頭で待ち続けると、また声がした。
した、気がした。聞こえた、気がした。
文章が壊れ途切れ千切れたように、単語が散らばりジーナは手に取れるものだけを消える前に手に乗せ、読み、すぐにわかった。
「ヘイム様と一緒にいたいな、ですよね」
本当にそう言ったのか? とジーナは確かめようとして聞こうとするがハイネは間を置かずにもう一歩踏み込んできた。
どっちですか?
そこに声があったのか宙に撒かれたような言葉は掴めず拾えないままジーナは答えた。
選ばないといけないのか?
ハイネの後頭部が反応し振り返りそうになるも、戻り首を振った。何かが戻ったようにジーナは息をつき意識は椅子に戻った。
戻った? 自分が立ち上がってハイネのもとに近づいたことにジーナは座った時に気が付いた。いつの間に? そしていったい何をしようとしたのか?
疑問が起こるも顔をあげると、ハイネがこちらを向いていた。そこには疲労しきった顔があった。
髪をかき上げ息を吐く姿を見ると長らく顔を見ていないどころか会ってもいないようにも感じた。遠くに行ったような、この距離感は?
「明日はちょっと用事がありましてここ休みますね」
「それは突然だな。何かあるのか?」
聞くとハイネは妙な笑顔をしてから答えた。
「デートです」
瞳の色はいつも通りだなとジーナはハイネの眼を見て感じた。
「それは良い話だな」
「そうですよね。前々から誘われていまして。そういうのは久しぶりなので楽しみです」
「久しぶり?」
どうしてかジーナの腹はすこし熱く痛くなった。
「そうですよ久しぶりに私は男の人とデートをするのです」
ハイネはさっきまでとは大きく違い一言一言はっきりとゆっくり、相手に伝わるように言っているとジーナには感じられた。
「それは楽しそうだ。でも街はまだ復旧中だし買い物をするのは難しいのでは」
なんでこんな余計なことを言う、とジーナは自分の口が勝手に動いた後に苛立った。
「デートというのは別にそういう目的があってするのではないのですよ。会いたいから、会う。これが根本にあってあとは正直なんでもよくて成り行きで構わないのです」
なんだかこれ以上話したくないなとジーナは思った。足が変に縦に揺れる。
「まぁ頑張って楽しんでくればいいんじゃないのか」
なんて不必要な返事。
「はい。明日が楽しみです」
もう返事はしない、と茶を飲もうとするも、いつの間に茶が無くなっていることにジーナは気づいた。
いつ呑んだ? たしかにさっきから口はつけていたが、こんなに早くなくなるなんて……
「さっきから空のコップをなんども口に運んでいましたが、どうしました?」
いまではない、のか? しかも気付かれそのうえ見られていた。
「なにか考え事でも? 聞きますよ」
「いや考えてはいないよ」
「上の空でしたよ。私が見る限りずっと」
放心? そんなことあるわけないし、私は何も、焦ってなんていない。
「誰って聞かないのですか?」
「えっ?」
突拍子もない言葉がジーナの額に当たった。
「デートの相手は誰なのか、気にならないのですか? 普通は聞きますよ」
「ハイネの例の取り巻きたちだろ」
「取り巻き? 昔からの友達ですよ。悪意のある言い方ですね。彼はとても良い人なのですからね」
聞くやいなや何かが切れた反動でか、ジーナはその場で立ち上がった。
「帰ります。じゃあ明後日にお願いします……ハイネさん」
ジーナはハイネの顔をジッと見たもののその表情は変えずに微笑んだ。
「お疲れ様でしたジーナさん」