こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

仲良く泥のかけあい

 城の方から鐘の音が鳴った。それは闘鶏場の開始の合図のようにジーナには聞こえた。

 人に対して使う表現ではないのにとてもしっくりときた。闘いが、始まろうとしているのだろうから。

「……っでこれからどうします。丁度休み時間になりましたが」

 そんなこと言われても分からないと首を左右に微かに降るも気付かないのかハイネの表情に変化はない。

 呆れてどこかに行ったら助かるのに、嫌なタイミングで鈍感になる女だなとジーナは思った。

 これは本気なのかわざとなのか、その両方の可能性があるだけジーナには判断のつきようが無かった。

「……お昼ご飯は食べたか?」

「食べていませんが、どうしました? 私の胃の具合を気にしてなんですか? 違いますよね? 気まずいからって心にも思っていないことを聞かないでくださいよ。空腹に響いて、不快です」

 嫌な女だなと率直に思ったがジーナは口には出さない。それぐらいの知恵はやっとついている。

 化粧が濃い上に香水の匂いも強いと今日はやけに苦しくなりそうだとの予感はあるも、逃げるという発想はまるで起こっては来ない。

「ご飯を食べるか?」

「どうしてそんなことを聞くのです?」

「だってハイネは空腹で苦しいと訴えていたし」

「誰も訴えていません」

「さっき空腹に響いてって」

「あれはただ事実を述べた独り言です。それならジーナが僕は頭が悪くて辛いと言ったら、いきなり後ろから私が現れてああ可哀想に、じゃあその悪い頭を解剖して治してあげますからここは一つ頭を割らせてください、とでも言ったらあなたはそれをやらせますか?」

 反発よりも前に笑いが来たのかジーナは鼻で笑うとハイネもまた咳を二つする。

「もういい。私はお昼ご飯をちゃんと食べたい。だから食べに行く」

「はい、どうぞ」

 なんて無意味なやり取りだろうかとジーナは思うが足が動かない。

「なんでそう返すんだ?」

「ごく普通の返しだと思いますけど、おかしいですか?」

「だってお前はまだ昼ご飯を食べていない」

「そうですね。でもその前提とこれからのその行動との間には何かが欠落している感じがあるのですがどうでしょう?」

 抜け落ちているのなら考えても仕方がないだろうと考えながらジーナはハイネの表情を見る。

 怒っているような笑っているようなどちらとも受け止められるその微妙な間に留まっている顔。曖昧極まる表情。

 私以外の人なら、この表情の意味は分かるのだろうか? と思うも、他人はどうでも良く自分が分からなくてはしょうがないとジーナは諦めた。

「逆に聞くが、私と昼ご飯を食べたくない理由ってなんだ?」

「知りませんよそんな理由。私、いつ食べたくないとあなたの言いましたっけ?」

「理由がないのなら別にいいということだな」

「そういうことになりますね」

 ハイネの表情は硬くなった。もう怒って笑ってもいないようにしか見えなくなっていた。

「……っでなんです?」

 知らない香水の匂いが風に乗って鼻につきジーナは一つ分かった。ハイネは今日私と会うことを予想していなかった。

 だからこのような知らない匂いをつけたのだと。

「……私と一緒に昼ご飯を食べよう」

 そう言うとハイネは失笑気味に頷いた。

「いいですよ。しかしまぁなんて回りくどいのですかね。はじめから、開口一番に、そう聞けばいいのにああだこうだとベラベラ喋って。空腹だのなんだのって、私のことを理由にして動機づけしないでください。あなたはただ率直に言えば良かったのです。僕はハイネさんとご飯を食べたいのだが、行きませんかって。そしたら私は、はいとすぐに答えましたよ」

 納得できない論理なためかジーナは首を傾げるとこれには気づいたハイネが一歩近づいて小馬鹿にした眼つきで続けた。

「あーそういう態度をとりますか。もし私が昼ご飯を済ませていたら誘わなかったのですか? いいえ。違いますよね。お茶でもどうですか、と聞いたはずです。ここでもまたあなたは、ハイネさんの体内ではお茶の苦味成分が足りていないようだから誘ったとか言うのでしょうが」

「もう理屈っぽすぎて私にはその論理が分からない。ハイネはこう言うやり取りがしたいのか?」

「全然。こんなのを好きな人なんてどこにもいやしませんよ。ジーナこそそういうやり取りがしたがっているのですよ」

「そんなことはない」

「大きな声をあげて怒っても、口先だけでは誤魔化せません。身体は正直なのですからね。つまりはこれです。実際にやっているのに口では違うと否定する、そうするとこちらも否定して二人諸とも泥沼に突入です。私とあなたで仲良くその泥沼で水掛け論ならぬ泥の投げっこをしてお互いにその身体を汚すのです。ああ……なんてくだらないことをしているのかと呆れて自らを憐れんでしまいますよ」

 言うとハイネは悲しげな眼をしたが、口元が歪んでいるのを見た。ああお前の言うようにその身体は本当に正直だな、とジーナは悪意の方をとった。

「じゃあハイネが私の言うことを肯定していたらこうならないというのか?」

「はい。聞きますがジーナは私と一緒にいたくないですよね?」

「それはまぁ……」

「さようなら」

 半端な言葉に全力でもって答えるようにハイネは駆け出そうとしているのを見たジーナは思わず叫んだ。

「あっちょっ」

 反射的に自分は何を? と訂正しようとするやハイネは爪先が地面を突き華麗に回転し戻ってきた。

 そう言われることを分かっていたように。そしてその顔には得意げな勝ち誇る笑みを浮かべていた。

「私は、その戻れとは」

 ハイネは声すら出さずに首を大きく振った。

「はい、これ。面白いですよね。あなたのことを理解すると自然とこう反抗するほうがあなたのためになる。私に対する混乱もその癖によるもので身から出た錆というやつですよ。もうこれ以上つべこべ言わずに行きましょう」

「これは、その実のところ私としては不思議なんだ」

「はいはい分かっていますよ。はやく歩いてください」

 背中を押して歩くのをせかすなかジーナは言った。

「いや分かってない。これは誰に対してもするのではなく、特にハイネに対しては強く出る。そういうものなんだ」

「へぇ~なんで私だけなのですか?いまさら反抗期でも発症しましたか? まああなたは年がら年中反抗期みたいなものですけど。でも私ってジーナのお母さんでもお姉さんでもないですよね? 年齢的にちょっと下の妹ですけど、そう見てます?」

「違う」

「あれ? 妹に反抗する兄なんているか、とは言わないのですか? ツッコミどころですよ」

 そんな下らないことを言っていないで行こうと早歩きになるも、ハイネは難なくすぐに隣に追いつき、追撃する。

「じゃあ友達?」

「それもちょっと。友達っぽくないような」

「同意します。私達の関係を友達といったら友達という言葉に失礼ですよ。では同僚? それとも……」

 それとも、ってなんだ? と隣を向くとハイネと目が合った。その瞳は分かってはいたが、赤い夕陽の色をしていた。

「それとも……何だと思います?」
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