こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

眼孔の闇

 空には雲の欠片もなく白色が一点も見当たらぬ青で突き抜け、その蒼天一色の空へ向かうかのように二人の男女が階段を昇っていく。

 男は女の左手をとり女は一段下から導かれる様にして男の右手をとる。

 足音以外は無音の世界において二人は何も気にせずに一段一段足元を気にしながら昇り昇り、向かっていく。

 龍の休憩所の中二階的な広々とした踊り場には頭を垂れその二人を待つ数人のものがいた。

 風が吹くも微動だにせずその待つものたちは足音の数と音の高さだけに神経を集中させる。

 導くものが一段昇り龍となるものが一段昇る、といった永遠と感じられるほどの儀式じみた動きをひたすらに聞きながら待ち続け、最後の二段目から徐々に頭を上げ始め龍となるものの頭が見え始める最後の一段を昇り切ったその瞬間にぴったしと顔を合わせ、再度頭を垂れ歓迎の儀式は始まろうとしていた。

 だが一人だけ頭を完全に垂れず顔をすこしあげ見るものが、いた。龍を討つものが。

 龍となるものはそれを予め予知していたように目を、いや伽藍洞となっている眼孔を闇そちらに向けると、視線と意思が宙で交りあった。

 無いもので以って見えるはずもなく、見えてはいない。けれどもジーナには見られているという感覚しかなかった。

 あの龍が、見ている。はじめて見てきたと言っていい。これまでにないものを感じジーナは通り過ぎる二人の背中を眼で追った。

 ルーゲンこと龍を導くもの。そして龍となるもの……毒龍を。

 その二人はようやく席に着席すると一人を除き全員は頭をあげここで初めて龍身の顔を見た。

 龍身は微笑んでいた。それが初めての笑顔だとジーナはすぐに分かった。

 今まで自分は見たこともなく、また見せたこともないであろう左側を主体としたその笑顔。

 そうであるからこそ龍身は言った。

「みなのもの。妾を、我が龍をここ中央まで導いたことに、感謝する」

 ジーナは龍身の虚空の闇を宿す眼孔を睨むと、その闇は一層深さを増して見えた。
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