こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
ヘイム様に会いたかったので
隣にいたシオンが龍身に上着を羽織らせた。
「ヘイム様、まだ冷えますのでこれをどうぞ」
「うむ。とても良いな」
と休憩所全体を見渡したヘイムはシオンに言った。
「荒れ果てどれだけ殺風景な場所であるかと思っておったが、むしろ前よりも良くなっているようにも見えるな。これなら小うるさい連中も黙るしかあるまいて」
「中央全体を見て参りましたが、まだまだ荒れ果て暗いといった印象を受けました。ここでしばらくは良いんじゃないですかね」
ヘイムは手を伸ばすと薔薇の蕾に触れ微笑んだ。
「この距離感もちょうどいい。ご苦労であったなハイネにキルシュ」
二人は頭を下げハイネは言葉を返した。
「ありがとうございます。このバラの件ですが私達二人の他にも」
「おぉ分かっておるわざとだ。どんな反応をするのかちと見たくなってな」
特別製の椅子を微かに右に回転させ右眼を見据えさせながらヘイムは言った。
「ご苦労だったジーナ。おいこいつ、俺を無視したな、とかそんな風に睨んでも良かったのだぞ」
「そんなことは思いません。私がやったのはハイネに比べれば微々たるもので。主に水と土を運ぶ作業をしていましたから」
「そうはいうが、この右側のバラの列はそなたの手であろう」
薔薇はまだ咲いてはいないものの蕾からはみ出る花弁によって色が少しわかるようになっていた。
「左側の列は色が重ならぬように互い違いに植えられておるが、こっちのはランダム性が激しい不規則な色彩感覚。そなたはあれだ、美的センスがなさそうであるから配色などよく分からんで植えたのであろうな。ハイネはまさかそんなことはせぬ。性格通り几帳面に配色をする。キルシュも同様。従ってそなたがこちらを全面的にやったとしか思えん。どうだこの名推理。下手であったらまずそなたを疑えば正解だ」
キルシュとハイネが声をたてず笑うもジーナは苦笑いもせずにヘイムと同じく薔薇の列に目をやった。
「確かに配色など気にせずに植えました。私はいままでまだバラという花を見たことがありません。どのような花でどのような色をしているのか、話しでしか聞いたことが無い。そんな私に適切な配色ができるとは思えません。ですから、まぁ、勘といったものを働かせましてね」
「その結論が勘任せというのが非論理的で不可解であるが、まぁ、咲いたら咲いたで意外に良いかもしれんがな。そなたの勘とやらがどのようなものであるのか、そこは花開いてからが楽しみということで」
上機嫌に花弁を撫でるヘイムは微笑みその口で、言った。
「しかしよく護衛に戻る気になったな。あんな辞め方をしておいて」
冷たい声にほのぼのとしていた一堂の間に緊張が走った。
「どの面さげて、なる言葉があるが、そんな面を下げてとは知らなかったであるぞ。いつもと変わらずに申し訳なさげなど微塵も感じさせない、その俺は悪くない面。もう一度言うが、よく戻りたいと思ったものだな」
「はい、ヘイム様にお会いしたかったので」
皆が震えたせいでだれかのコップが倒れ茶が零れるも、誰も拭くことも動くこともできずにいた。
「そう言えば妾が喜ぶと思っていたのなら、もうちっと表情を柔らかくしたらどうだ。なんにも伝わってこんぞ、な?」
「ヘイム様にならこれで伝わっているかと思いますが」
同席している女官たちは、特にキルシュは顔面蒼白となり何か言いたそうに口を動かしていたが、声を失っており何も聞こえては来なかった。
そもそも自分が倒れないことで精一杯な状態のなか、一部のもの以外のみんなは思った。
なんでこの人は龍身に威圧されて気絶しないのか、と。
「何にも伝わらんし会うなら別に護衛でなくていいだろう」
「こうやって間近にいた方がこちらにとって都合がいいわけでして」
「都合? なんだそれは、馬鹿にしておるのか?」
「あのヘイム様。たとえば私が苦悶に歪んだ顔を見せながら謝罪をし、涙を流しながらも微笑み、悔い改めまして龍の護衛に戻りたい次第でございます、と頭を下げ、ご覧くださいあのバラの花壇を、とバラをの列をセンス良く定規で図ったかのような等間隔で植えていましたら、見上げたやつだ、お前の心は伝わったぞ、妾は嬉しい、よくぞわが心を理解したな……とかには絶対にならないと私には思えるのですが」
静寂が辺りを包むが、風が吹く音に転がるカップの間抜けな音であっても一堂は全神経を集中させて耳を傾けていた。
龍身がなんと答えるか……こいつを斬れと指示を出したとしたら……女官らは息を止め龍身の方を覗き見ると予想外の声が聞こえてきた。
「……ハハハッ。なんだそれはいかんな、気味が悪い。鳥肌が立つわ。そんなのを見て聞いた日には急いであの階段まで引きずってから突き落とし、そのまま地獄の底まで転がり落ちることを上から願うぞ。あとそなたなぁ。妾が慈悲深くなかったら、あんな生意気な返事に対しては厳罰に処していたのだが、そう予想はしなかったのか?」
「いえ全然。私だってヘイム様がそうしろと命じないと分かっているからこそ、このようにお返しするのです。そんなのあたり前じゃないですか」
「今日はやけに弁が立つな。というよりかはどことなく賢くなったというべきか。ハイネとルーゲンのおかげか?」
ハイムが首を左に流すと同時にハイネと視線が合った。ヘイムはそれを逸らさずハイネも目を離さずにいた。
「私が賢く見えると言われるのなら、それはひとえに二人の努力の賜物以外のなにものでもありません」
ジーナの答えにヘイムは前を向いた。
「だろうな。そなたみたいな愚か者に芸どころか知性を教えさせるなんて苦難そのものだ。妾の側近中の側近であるからこそ、そのようなことができたのだ。感謝するようにな」
「いつもしております」
「いまもするようにな」
「はい、ヘイム様」
ジーナは目を合わせてそう言った。そのヘイムの後ろにいるものの顔を見ずに。
一連のやり取りを脇で聞きながら一人シオンは茶菓子を齧っていた。
ああ良かった、とシオンはヘイムを見ながらそう思う。今はヘイムだ、と。
「ヘイム様、まだ冷えますのでこれをどうぞ」
「うむ。とても良いな」
と休憩所全体を見渡したヘイムはシオンに言った。
「荒れ果てどれだけ殺風景な場所であるかと思っておったが、むしろ前よりも良くなっているようにも見えるな。これなら小うるさい連中も黙るしかあるまいて」
「中央全体を見て参りましたが、まだまだ荒れ果て暗いといった印象を受けました。ここでしばらくは良いんじゃないですかね」
ヘイムは手を伸ばすと薔薇の蕾に触れ微笑んだ。
「この距離感もちょうどいい。ご苦労であったなハイネにキルシュ」
二人は頭を下げハイネは言葉を返した。
「ありがとうございます。このバラの件ですが私達二人の他にも」
「おぉ分かっておるわざとだ。どんな反応をするのかちと見たくなってな」
特別製の椅子を微かに右に回転させ右眼を見据えさせながらヘイムは言った。
「ご苦労だったジーナ。おいこいつ、俺を無視したな、とかそんな風に睨んでも良かったのだぞ」
「そんなことは思いません。私がやったのはハイネに比べれば微々たるもので。主に水と土を運ぶ作業をしていましたから」
「そうはいうが、この右側のバラの列はそなたの手であろう」
薔薇はまだ咲いてはいないものの蕾からはみ出る花弁によって色が少しわかるようになっていた。
「左側の列は色が重ならぬように互い違いに植えられておるが、こっちのはランダム性が激しい不規則な色彩感覚。そなたはあれだ、美的センスがなさそうであるから配色などよく分からんで植えたのであろうな。ハイネはまさかそんなことはせぬ。性格通り几帳面に配色をする。キルシュも同様。従ってそなたがこちらを全面的にやったとしか思えん。どうだこの名推理。下手であったらまずそなたを疑えば正解だ」
キルシュとハイネが声をたてず笑うもジーナは苦笑いもせずにヘイムと同じく薔薇の列に目をやった。
「確かに配色など気にせずに植えました。私はいままでまだバラという花を見たことがありません。どのような花でどのような色をしているのか、話しでしか聞いたことが無い。そんな私に適切な配色ができるとは思えません。ですから、まぁ、勘といったものを働かせましてね」
「その結論が勘任せというのが非論理的で不可解であるが、まぁ、咲いたら咲いたで意外に良いかもしれんがな。そなたの勘とやらがどのようなものであるのか、そこは花開いてからが楽しみということで」
上機嫌に花弁を撫でるヘイムは微笑みその口で、言った。
「しかしよく護衛に戻る気になったな。あんな辞め方をしておいて」
冷たい声にほのぼのとしていた一堂の間に緊張が走った。
「どの面さげて、なる言葉があるが、そんな面を下げてとは知らなかったであるぞ。いつもと変わらずに申し訳なさげなど微塵も感じさせない、その俺は悪くない面。もう一度言うが、よく戻りたいと思ったものだな」
「はい、ヘイム様にお会いしたかったので」
皆が震えたせいでだれかのコップが倒れ茶が零れるも、誰も拭くことも動くこともできずにいた。
「そう言えば妾が喜ぶと思っていたのなら、もうちっと表情を柔らかくしたらどうだ。なんにも伝わってこんぞ、な?」
「ヘイム様にならこれで伝わっているかと思いますが」
同席している女官たちは、特にキルシュは顔面蒼白となり何か言いたそうに口を動かしていたが、声を失っており何も聞こえては来なかった。
そもそも自分が倒れないことで精一杯な状態のなか、一部のもの以外のみんなは思った。
なんでこの人は龍身に威圧されて気絶しないのか、と。
「何にも伝わらんし会うなら別に護衛でなくていいだろう」
「こうやって間近にいた方がこちらにとって都合がいいわけでして」
「都合? なんだそれは、馬鹿にしておるのか?」
「あのヘイム様。たとえば私が苦悶に歪んだ顔を見せながら謝罪をし、涙を流しながらも微笑み、悔い改めまして龍の護衛に戻りたい次第でございます、と頭を下げ、ご覧くださいあのバラの花壇を、とバラをの列をセンス良く定規で図ったかのような等間隔で植えていましたら、見上げたやつだ、お前の心は伝わったぞ、妾は嬉しい、よくぞわが心を理解したな……とかには絶対にならないと私には思えるのですが」
静寂が辺りを包むが、風が吹く音に転がるカップの間抜けな音であっても一堂は全神経を集中させて耳を傾けていた。
龍身がなんと答えるか……こいつを斬れと指示を出したとしたら……女官らは息を止め龍身の方を覗き見ると予想外の声が聞こえてきた。
「……ハハハッ。なんだそれはいかんな、気味が悪い。鳥肌が立つわ。そんなのを見て聞いた日には急いであの階段まで引きずってから突き落とし、そのまま地獄の底まで転がり落ちることを上から願うぞ。あとそなたなぁ。妾が慈悲深くなかったら、あんな生意気な返事に対しては厳罰に処していたのだが、そう予想はしなかったのか?」
「いえ全然。私だってヘイム様がそうしろと命じないと分かっているからこそ、このようにお返しするのです。そんなのあたり前じゃないですか」
「今日はやけに弁が立つな。というよりかはどことなく賢くなったというべきか。ハイネとルーゲンのおかげか?」
ハイムが首を左に流すと同時にハイネと視線が合った。ヘイムはそれを逸らさずハイネも目を離さずにいた。
「私が賢く見えると言われるのなら、それはひとえに二人の努力の賜物以外のなにものでもありません」
ジーナの答えにヘイムは前を向いた。
「だろうな。そなたみたいな愚か者に芸どころか知性を教えさせるなんて苦難そのものだ。妾の側近中の側近であるからこそ、そのようなことができたのだ。感謝するようにな」
「いつもしております」
「いまもするようにな」
「はい、ヘイム様」
ジーナは目を合わせてそう言った。そのヘイムの後ろにいるものの顔を見ずに。
一連のやり取りを脇で聞きながら一人シオンは茶菓子を齧っていた。
ああ良かった、とシオンはヘイムを見ながらそう思う。今はヘイムだ、と。