こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

光を宿す資格

 その言葉を思った途端にハイネの頭の中で爆発音が鳴った。

 無い、それは絶対にない。

 爆発の残響音のために手紙の内容をまだ語るヘイムの声が聞こえなくなるもそれは好都合であった。

 如何なる内容だとしてもこれ以上聞きたくはなく、また今はそれどころではなく、今は頭に思い浮かんだことを、完全に論破し否定し忘却の彼方の地に埋葬しなければならない。自分自身を埋めねばなるまい。

 姉様があの二人の関係を容認するとか、そんなの意味不明過ぎる。なんでそんなことを思うのですか、私は。

 いくらあの男が想っていても、そんなことを許す姉様ではない。

 ヘイム様の従姉妹で幼馴染で龍の騎士とかいう絶対的な存在がかようなことをするはずがない。

 けれども、とハイネは自分で自分に反論をする。行動だけを見ればそうだとしか思えない。

 龍の婿の選定に昔ほど乗り気ではないばかりか候補者筆頭のルーゲン師をソグに到着後は何故か疎んじそれ以後若干敬遠気味であるのに、あの問題しかないジーナに対しては無条件的なほどの歓迎ぶり。

 手っ取り早く本人に直接的に聞いてみたいところだが、危険すぎる問いだとは混乱しているハイネにも想像できた。

 私とジーナとの仲を猛烈に反対している理由がそれなのですか? と聞いたところで姉様は泣き顔となり私を抱きしめそしてこう言うだろう。

「ハイネ、あなたは疲れているのですよ。あんな男に誑かされて意味不明な妄想にとりつかれてしまって……しばらくお休みなさい」

 と人事を司る龍の騎士として権力を駆使し、間違いなく私は精神に異常をきたした女として扱われジーナとは接触禁止となるだろう。

 それは最悪すぎる。しかも姉様はこちらの問いに対して間違いなく心中で、そんなはずないとしか思わない。

 どういうことだが姉様にはそのような意図が真実、無いのだろう。

 でも行動はそうである、しかし心の中ではそんな発想は無い。

 頭と体が分離している? それってまるでジーナのように? 思えばヘイム様だって龍身である。

 みんな言っていることとやっていることがてんでバラバラで統合性を失っている。これはなんなのだろうか?

 まさかこの場にいるものでまともなのは私だけであり、そうであるからこそ悩み、こんな妙なことを考えざるを得ないことになっているのでは?

 虚空を見ながらそんなことを考えていたハイネは例の三人の方を見た。まだ声は聞こえないがヘイムの口は動き続け読み続けているのだろう。

 やがてヘイムのその口は閉じられ読み終わったのか手紙を仕舞うと今度は袖から封を取り出し、ジーナに手渡した。

 彼は戸惑いの眼を手紙とヘイムに対して交互にして見ながら何かを言う。

 ハイネにはその言葉が何であるのか聞こえなくても見当がつき、またヘイムの答えも何であるのか分かった。

 こうなるともう唇を読むのではなく読心術の領域に入るも、ハイネは完全に読めると確信していた。

 そしてそこに書かれている内容よりも大切なのは読み合うということすらも。それもこの自分の前で、と。

 ジーナが手紙を広げ一読するその表情と目の動きを見る間にハイネは息を止めていた。

 そうすれば時間が止まるのではないかと妄想するも、しかし止まりはしないもののゆっくりと時が流れているとも感じられた。

 ジーナの顔を上げる動きがえらく緩慢に見える一方でヘイムは無表情なままであった。

 懸命さを覚えるほどに何も感じていないように装っているとハイネは見た。

 その作りものめいた皮膚の裏にどんな感情が溢れ流れているのか? そしてこれからもっとそれを増やしたとしたら……

 ジーナの口が開き何かを言うとヘイムも唇を微かに動かし何か答えた。読んでいいのか、と問うたのだろうか。

 ハイネは無感動を装うヘイムのその瞳に微光を宿したのを見逃さなかった。

 それ以上は、駄目だ。それ以上は、許さない。あなたにそれを宿す資格などない。

 空咳を一つ鳴らしハイネは音を取り戻した。

 正気に戻ったかのように五つの瞳がハイネに集まると、それを笑みで流した。

「あの、そろそろルーゲン師がお出でになるお時間かと思うのですが、ご準備を」

 そんな時間だっけ? ヘイムとシオンは目を合わせハイネも同じことを思ったがジーナが静かに立ち上がり頭を下げた。

 ハイネが振り返るとまるで召還したようにルーゲンが、龍を導くものが階段を昇り切ろうとしていた。
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