こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

悪意との逢瀬

 腰にさげた剣を揺らしながらジーナは広場の中に入っていった。

 それほど広くはない場所であるが、今日はいつも以上に広さを感じる。

 人が、少ない。少ないどころか皆一様にジーナとは逆方向の出口へと向かっていく。

 そろそろ龍の儀式の祭典が始まる。だからこの人達は……とジーナは思いつつ、嫌な予感も同時に抱いた。

 やはり、どうしてもハイネへの疑惑を拭うことができない。必ず何かを仕掛けてくる、だがそれでも会おうとする……この矛盾した論理。

 いつも通りか、とジーナは歩調を速めて前へと進む。ハイネにこのことを伝えたらあなたらしい、と答えるだろうと想像しながらジーナはこれ以上悩むことをやめた。

 嫌がろうが避けようとしても自分はハイネと向き合ってしまうと……まるで謎の呪いが掛けられているようなものとジーナは観念したものの、それでもここで捕まるわけにもいかないと指定席である奥へ行くまでに耳を澄まし、またその観察眼を最大限に広げた。

 すると奥から聞き覚えのある男達の声が聞こえ姿が見えだした。ソグの僧兵たちである。

 四人は掛け声と共に棒を振り、突き、払っている。彼ら四人をジーナは知っている。

 というよりかはこの広場に来るものならば、彼らがここの常連であり毎日同じ時間にここにいることは自然に知ってしまう。

 いつものことをしているのだとジーナは見た。そう見たかった。だが今日はそうではないのだろうなと進みながらその場所からちょっと離れたところにある椅子に目を向けるとハイネが視界に入った。

 彼女は椅子から立ち上がり手を振り普段はまるで見せない他人向けの笑顔と声で出迎えてくれた。これまた怪しい。

 だからジーナはソグの僧兵たちに目を向けると予想通り四人は無反応であり、確信する。これは明らかに罠であると。

 ハイネみたいな女が動いて声を出したら大抵の男はまず何らかの反応するとジーナは知っている。

 そうであるのに四人は完全に無反応であり、まるでそれはそうすることに努めているかのように見えた。

 よってこれは事前に打ち合わせているのだろうとジーナは想像する。

 真面目に演技をしすぎて肝心なリアリティという点で詰めを誤ったな、それなら……とジーナは思考しながらハイネの笑顔に対して手を振って応えながら机へと近づいた。

「手を振り返してくれるなんて珍しいですね。それとどうしましたその格好。どこか戦いにでも行かれるのですか?」

 ハイネの衣装はさっき会ったのと変わらないが首飾りや指輪を身に着けているのが目に入り、すぐに目を逸らした。

 その右手薬指にはかつて自分が買った指輪があり、異様なプレッシャーをジーナは感じ取った。

 反応をするなと腹の底から声が響く。それだけは駄目だと。

「……ああこれはなハイネと会うからこうして来たんだ」

「それって私と外でお茶をするのが戦闘みたいに聞こえますけど」

 実際に精神や体力の消耗度は戦闘と比べてもひけを取らないのだが……とジーナはハイネを見下ろしながら思う。

 そうだこの女は敵なのだ、自分の使命を邪魔し混乱させる存在なんだ、と。

「まぁ、そういうものに近いな」

「またそんなことを言って。するとそれは勝負服ということですね?」

「意味は分からないが、そうだなこれは勝負服だ。何と戦うのか分からないが」

「なら私と一緒ですね。どうです、ジーナ」

 ハイネは立ち上がり自らの衣装の華美を誇るようにその場でくるりと回り自慢する。

 衣装の鮮やかな彩が光が放ちまた宝石は光を反射させ人をジーナを惑わしに来るも、混乱を防ぐために足りないものを想像することにした。

 欠けているもの……そうハイネの頭は何も乗っていない。そこに以前見せて貰った被りものを想像すると、そこにはひとつの美の完成というものが見えた。だがいまそれがないために、完成していない、なら大丈夫とジーナは胸を撫で下ろした。

「それで、どうです?」

 再度の問いにジーナは冷静に答えた。

「あの被り物を頭に載せれば、きれ……まぁ良いのでは」

 ハイネの眼は大きく見開かれ、それから崩れた。

「ふふっ回りくどい……」

 負かしたはずのハイネの表情にジーナは戸惑った。

「えっなに?」

「いえ、どういたしまして」

「なんだその勝ち誇った顔は?」

「誇るもなにもだって私の勝ちですもの。はい、ジーナからハイネは綺麗だ、を貰いました」

「ちがうそうじゃない」

 だがハイネは言葉を無視しながら微笑み続ける。

「今度は被り物をつけているのを見せてくれと。しょうがありませんねこの人は」

「おいちょっと聞いてくれ。私はそんなことは一切言っていない」

「なんです。それは注文ですよね。あなたは私にあの素敵な被り物をつける姿を想像したから、そう言ったのでしょ? ねぇそうですよね?」

 想像はしたが……とジーナは何も答えずに立ったままである。そう今は何も答えたくない気分であり、このまま消えたいとまでジーナは思い出しているとハイネが椅子に座った。

「あの、座りません?」

 来たな、とジーナは思考を変化させ元に戻した。ここに座っていいかどうかは考えるまでもなく、駄目だ。

 いまはじめてジーナは背中に視線を感じた。しかも四つ、とこれは紛れもなく僧兵たちによるもの。

 あのハイネがくるくる回っているときに見ないで、いまこの自分が座るかどうかを気にして注目するのはまず有り得ない。

 かなり訓練されているようだが、ここにきてさすがに自制心が利かなくなったなとジーナは四人の実力を測った。

 一対一なら負ける要素は無いが四人組では……しかも訓練の内容が捕獲術を重点的でやっているソグの棒術であることから……

「ジーナ座りましょうよ」

「もうちょっと奥に移動しないか?」

 距離を取れば問題は無く、またこれを拒否された場合は帰ればいい。

 ハイネは少し怪訝そうな表情をするだけであったが、これも演技なのだろうとジーナは見て取った。

「良いですけど、いつものここでなにか不都合でも」

「いろいろとな。今日はここじゃない気分なんだ」

 こう答えると一瞬の沈黙の後にハイネが満面の笑みをジーナに放つ。

「もしかしてあの四人の僧兵があなたを襲うとかいう想像をしちゃいました?」

 背筋に冷たいものが走るのを感じ取るとジーナは剣の柄を手を掛け後ろを振り返る。

 だがそこには一心不乱で棒を振るう四人の僧がいるだけであり、四人は視線だけ向けるもすぐに前に戻した。

 勘違い? もしも全部が勘違いであったら……

「警戒心の塊」

 名を呼ばれた気がしハイネの方へ振り返るとまだ笑っていた。

「剣まで腰にさげちゃってすごい怯え方ですね」

「怯えている?」

 そのまま応えるとハイネは頷いた。

「ねぇ私から悪意を感じますか?」

 ジーナはああ、と言い頷きたかったが声は出ず首も動かない。

 強く視線を掛け、そこから何らかの悪の兆候を見つけたかったがハイネからはなにも、見えなかった。

「悪意を感じ取りたいが、どこにも感じられない」

「そこまで警戒してそんな感情を私に抱いているのに、あなたは私に会いに来るのですね」

「私も、不思議だ」

「自分で言うのですね。でもあなたってそういう人でもの。私は受け入れますよ」

 ハイネが言うと椅子から立ち上がった。

「じゃあ行きましょうか。どうぞご案内ください。あっこのお茶道具の入った袋はあなたが持ってもらえますか?」

 ジーナは袋を持たされあたりを見まわした。手頃な席はここであるが……

「さてどこへ行こうか」

「どうぞ私を連れて行ってください。あなたの行くところは私はどこまでもついていきますよ」
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