こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
毒見をする女
これが冗談でなく本気で言っているとジーナには確信ができ、身体のどこかが震えた。
とにかく奥へ奥へとジーナは歩き出す。何かを振り切るためのように歩くもすぐ後ろにはハイネがついてくる。
「どこでもいいですよ。遠くても近くでもどこを行ってもあなたと私は一緒なのですから」
真理のような言葉が背中を突き刺してくるが、ジーナは気を高めた。
惑わされるな、今自分がやっていることはあの四人の僧から離れることだと。
自分の背後にはハイネが、その先には四人の僧が、とジーナは振り返らずに広場を歩き続ける。
ハイネは無言であった。もうここにしましょうも、そんな遠くは嫌です、まだですか、とそんな言葉をジーナは待っていた。
そっちのほうがいつものハイネであり逆に罠を仕掛けていないとも思えるのだが、何も言葉が来ない。
歩けば歩くほど自分の中の疑心が強く胸を締め付けて来るとジーナは感じる。
なんだこの痛みはこんなものは私に関係などないのに……ハイネを疑いそれで以って傷つけることに……何故自分が苦しまないといけないのか? と妄念じみたそれを振り払いジーナは息苦しさに耐え兼ねもうここでいい、と立ち止まりその机に袋を置いた。かなり遠ざかったな、とジーナは思った。
「あれ? 案外近くなのですね」
ハイネの久々の声でジーナが振り返る、とさっきの席から十席ほど遠ざかった程度であった。
あんなに歩いたのに……とジーナが呆然としているとハイネが苦笑いしながら袋を手に取った。
「もう少し奥に行きます?」
問われるも、だがジーナはハイネの手から袋を取り机の上に置き戻した。
「ここでいい、ここで。私的にはかなり歩いたのだから」
「呼吸を止めながら歩いていませんでした?」
たしかに、とジーナはまた腹立たしかった。なんでここにきて呼吸を忘れるのだと。
いまさら移動もできずに僧兵にまた目をやると彼らの動きに変化は無かった。
距離という点では遠ざかったのは確実であり、何か事が起こった場合ここでなら逃げられるとジーナは楽観し、その椅子に座りハイネも続いた。
「では私が淹れますからちょっと待ってくださいね」
ハイネが袋から茶道具一式を取り出し準備を始めるその手の動きをジーナはじっと見つめ思う……あるとしたら毒か。
致死性とまではいかないまでも動きを止めるもの痺れ性のものを使う可能性は高い。
ジーナが分析していると茶菓子が袋の中から出てきた。高級そうだ。
「そうそう、それを下賜されましてね。かなり味が濃いものでしてお茶請けにはぴったりかと」
飴細工を施した焼き菓子でありこれは喉が渇くな、とジーナは思いそして連結する。毒があるとしたら茶だと。
このあとハイネから菓子を勧められそのまま食べ茶をたくさん飲み、痺れて倒れる……ありえるとしたらこれだ。
あるいは菓子に毒を入れる、はもっと有り得るか。
下賜というからには龍からのものであり、あの呪龍が何らかの工作をしてハイネに渡したのがこれだとしたら、罠以外のなにものでもない逸品。この二つを避けるとしよう、進められても絶対に食べはしない、とジーナは決心するとハイネが焼き菓子に手をつけた。
「これ美味しいのですよね」
と言いながら齧り食べだした。演技かなとジーナは見ていると一枚食べ二枚食べ、ただ食べているばかりであった。勧めないのか?
「なんですその顔? 毒でも入っていると思っていません?」
「それは食べている方が言う台詞じゃないよな」
「だって私は毒なんて入っていないと分かっていますし。これシオン様からの贈り物ですよ。姉様が私を亡き者にしたいというのなら私は諦めてその運命を受け入れます」
そう言いながら残り一枚だけを残しハイネはポットに茶葉を入れ、ジーナを見た。その嘲笑うかのような眼差し。
「ジーナはこれに毒が入っていると思っていますよね?」
ハイネはポットを人差し指ではじくと軽く硬い音が鳴る。なんて虚ろな音だろうか。
「……思っている」
「どこまで疑り深いのですかね。いいですよ。そのあなたの疑心暗鬼にとことん付き合ってあげます。ではまずこちらから」
ハイネはコップを渡しながらそう言うとジーナはコップの中身を覗いた。異常は……ない。
「いえいえ目視では駄目ですよ。このコップの淵に毒が塗られている可能性は大いに有り得ますよね? ハイネさんはとても意地の悪い女だと想定しているのならあらかじめ拭い取っておかなきゃ。ハンカチはあります?」
そう言われジーナは素直にハンカチを取り出しコップの淵を拭き出した。何かを塗られている形跡は無かった。
「あと底も拭くべきです。そこに薄く塗られていたら大惨事ですからね。この際内側全体を拭い取るべきでしょう」
そこから内側にハンカチを走らせるも、何も手ごたえは無くハンカチを広げ確かめても汚れすら無かった。
「さて残るはこのポッドの中身ですよね。私がこの中に毒か何かを入れればあら不思議、ジーナは痺れて動けなくなりあそこにいる四人の僧がやってきて逮捕され連れていかれてしまう……とあなたは思っていましょう」
なぜ自分から話す、というよりか否定しないのか? 私はそんなものは入れない、と。ジーナはハイネの話の進め方に混乱しながら頷いた。
「よろしい。ならば私が飲めばいいのでしょう。というか疑われなくても私はさっきのお菓子で喉が甘さで乾いているのでお茶を飲みたいのですよね。では、コップに注ぎますよ」
ポットは傾けられ注ぎ口からは茶色の液体が湯気と共に流れているのをジーナは眺めていた。色に変化はないと思っていると眼の前にコップが現れる。
「香りをどうぞ嗅いでくださいな」
ハイネの挑戦的な瞳にジーナはコップの淵に鼻を近づけ吸い込む、濃く香ばしい匂いが鼻孔いっぱいに広がり全神経を集中させる。
異臭は混じっていないか? 何かおかしくはないか、と。念入りに探るも、違和感に当たることは無かった。
「どうです? 毒の臭いはしました?」
「しないが、濃い目に作ってあるのは毒の微かな臭いを隠すための偽装工作かもしれない」
「本人を前にしてよくそんな疑いの言葉を言えますね。けどそう疑ってみてもおかしな臭いは感じられないのですよね」
いくら嗅いでも茶の匂いのみ……そうではあるが、そうではあるが、と悩んでいるとハイネはコップを自分の口元に運んだ。
「なら実際に私から飲んでみます。あなたが毒入りだと信じて疑わないこのお茶を飲みますが、いいですかジーナ? 私の喉を見ていてくださいね」
言われてジーナはハイネの細い首を見る。なんだ?
「私がちゃんと呑み込んでいるのか。ご確認あそばせ」
ハイネは唇をつけカップを傾ける。その躊躇いのない動きと茶を嚥下する喉の動きをジーナは見つめるしかなかった。
喉は数回動き音も鳴る。間違いなく飲み、全て胃に収めている。しかも迷いなく……
「うっ!」
ハイネは突然口元を抑え俯いた。
「おいハイネ!」
ジーナはハイネの肩に触れるとハイネの顔を仰いだ。
「美味しいです」
笑顔に対してジーナは怒鳴った。
「冗談はやめろ」
「あなたのその毒疑惑だって冗談みたいなものじゃないですか。それをやりかえしただけですよ。それでどうです? 私は毒茶を飲みましたが顔が鉛色となったり血を吐いたりしていましょうか? それとも二杯目を飲みましょうか。私は言いましたよ。あなたの疑心暗鬼にとことん付き合う、と。次は何をします、言ってください」
ハイネの眼に怒りの色が見え、ジーナは考える。遅効性の毒であるのならいまここで症状が出ないのは当然で……
だとしたら飲んだハイネはこのまま倒れるわけだが、このあと儀式に出ることは不可能となる。
そんなことをあんなに躊躇なく敢えて行うだろうか? 演技にしてもあまりにも自然過ぎる。
もしも本当に毒を仕込んでいなかったら……全ては私の考えすぎだとしたら……私はハイネに対してなんということを……
「そこまで飲みたくないのなら私は強制なんてしません。それとここでもうあなたとお茶を飲むことなんて」
「いただく」
とにかく奥へ奥へとジーナは歩き出す。何かを振り切るためのように歩くもすぐ後ろにはハイネがついてくる。
「どこでもいいですよ。遠くても近くでもどこを行ってもあなたと私は一緒なのですから」
真理のような言葉が背中を突き刺してくるが、ジーナは気を高めた。
惑わされるな、今自分がやっていることはあの四人の僧から離れることだと。
自分の背後にはハイネが、その先には四人の僧が、とジーナは振り返らずに広場を歩き続ける。
ハイネは無言であった。もうここにしましょうも、そんな遠くは嫌です、まだですか、とそんな言葉をジーナは待っていた。
そっちのほうがいつものハイネであり逆に罠を仕掛けていないとも思えるのだが、何も言葉が来ない。
歩けば歩くほど自分の中の疑心が強く胸を締め付けて来るとジーナは感じる。
なんだこの痛みはこんなものは私に関係などないのに……ハイネを疑いそれで以って傷つけることに……何故自分が苦しまないといけないのか? と妄念じみたそれを振り払いジーナは息苦しさに耐え兼ねもうここでいい、と立ち止まりその机に袋を置いた。かなり遠ざかったな、とジーナは思った。
「あれ? 案外近くなのですね」
ハイネの久々の声でジーナが振り返る、とさっきの席から十席ほど遠ざかった程度であった。
あんなに歩いたのに……とジーナが呆然としているとハイネが苦笑いしながら袋を手に取った。
「もう少し奥に行きます?」
問われるも、だがジーナはハイネの手から袋を取り机の上に置き戻した。
「ここでいい、ここで。私的にはかなり歩いたのだから」
「呼吸を止めながら歩いていませんでした?」
たしかに、とジーナはまた腹立たしかった。なんでここにきて呼吸を忘れるのだと。
いまさら移動もできずに僧兵にまた目をやると彼らの動きに変化は無かった。
距離という点では遠ざかったのは確実であり、何か事が起こった場合ここでなら逃げられるとジーナは楽観し、その椅子に座りハイネも続いた。
「では私が淹れますからちょっと待ってくださいね」
ハイネが袋から茶道具一式を取り出し準備を始めるその手の動きをジーナはじっと見つめ思う……あるとしたら毒か。
致死性とまではいかないまでも動きを止めるもの痺れ性のものを使う可能性は高い。
ジーナが分析していると茶菓子が袋の中から出てきた。高級そうだ。
「そうそう、それを下賜されましてね。かなり味が濃いものでしてお茶請けにはぴったりかと」
飴細工を施した焼き菓子でありこれは喉が渇くな、とジーナは思いそして連結する。毒があるとしたら茶だと。
このあとハイネから菓子を勧められそのまま食べ茶をたくさん飲み、痺れて倒れる……ありえるとしたらこれだ。
あるいは菓子に毒を入れる、はもっと有り得るか。
下賜というからには龍からのものであり、あの呪龍が何らかの工作をしてハイネに渡したのがこれだとしたら、罠以外のなにものでもない逸品。この二つを避けるとしよう、進められても絶対に食べはしない、とジーナは決心するとハイネが焼き菓子に手をつけた。
「これ美味しいのですよね」
と言いながら齧り食べだした。演技かなとジーナは見ていると一枚食べ二枚食べ、ただ食べているばかりであった。勧めないのか?
「なんですその顔? 毒でも入っていると思っていません?」
「それは食べている方が言う台詞じゃないよな」
「だって私は毒なんて入っていないと分かっていますし。これシオン様からの贈り物ですよ。姉様が私を亡き者にしたいというのなら私は諦めてその運命を受け入れます」
そう言いながら残り一枚だけを残しハイネはポットに茶葉を入れ、ジーナを見た。その嘲笑うかのような眼差し。
「ジーナはこれに毒が入っていると思っていますよね?」
ハイネはポットを人差し指ではじくと軽く硬い音が鳴る。なんて虚ろな音だろうか。
「……思っている」
「どこまで疑り深いのですかね。いいですよ。そのあなたの疑心暗鬼にとことん付き合ってあげます。ではまずこちらから」
ハイネはコップを渡しながらそう言うとジーナはコップの中身を覗いた。異常は……ない。
「いえいえ目視では駄目ですよ。このコップの淵に毒が塗られている可能性は大いに有り得ますよね? ハイネさんはとても意地の悪い女だと想定しているのならあらかじめ拭い取っておかなきゃ。ハンカチはあります?」
そう言われジーナは素直にハンカチを取り出しコップの淵を拭き出した。何かを塗られている形跡は無かった。
「あと底も拭くべきです。そこに薄く塗られていたら大惨事ですからね。この際内側全体を拭い取るべきでしょう」
そこから内側にハンカチを走らせるも、何も手ごたえは無くハンカチを広げ確かめても汚れすら無かった。
「さて残るはこのポッドの中身ですよね。私がこの中に毒か何かを入れればあら不思議、ジーナは痺れて動けなくなりあそこにいる四人の僧がやってきて逮捕され連れていかれてしまう……とあなたは思っていましょう」
なぜ自分から話す、というよりか否定しないのか? 私はそんなものは入れない、と。ジーナはハイネの話の進め方に混乱しながら頷いた。
「よろしい。ならば私が飲めばいいのでしょう。というか疑われなくても私はさっきのお菓子で喉が甘さで乾いているのでお茶を飲みたいのですよね。では、コップに注ぎますよ」
ポットは傾けられ注ぎ口からは茶色の液体が湯気と共に流れているのをジーナは眺めていた。色に変化はないと思っていると眼の前にコップが現れる。
「香りをどうぞ嗅いでくださいな」
ハイネの挑戦的な瞳にジーナはコップの淵に鼻を近づけ吸い込む、濃く香ばしい匂いが鼻孔いっぱいに広がり全神経を集中させる。
異臭は混じっていないか? 何かおかしくはないか、と。念入りに探るも、違和感に当たることは無かった。
「どうです? 毒の臭いはしました?」
「しないが、濃い目に作ってあるのは毒の微かな臭いを隠すための偽装工作かもしれない」
「本人を前にしてよくそんな疑いの言葉を言えますね。けどそう疑ってみてもおかしな臭いは感じられないのですよね」
いくら嗅いでも茶の匂いのみ……そうではあるが、そうではあるが、と悩んでいるとハイネはコップを自分の口元に運んだ。
「なら実際に私から飲んでみます。あなたが毒入りだと信じて疑わないこのお茶を飲みますが、いいですかジーナ? 私の喉を見ていてくださいね」
言われてジーナはハイネの細い首を見る。なんだ?
「私がちゃんと呑み込んでいるのか。ご確認あそばせ」
ハイネは唇をつけカップを傾ける。その躊躇いのない動きと茶を嚥下する喉の動きをジーナは見つめるしかなかった。
喉は数回動き音も鳴る。間違いなく飲み、全て胃に収めている。しかも迷いなく……
「うっ!」
ハイネは突然口元を抑え俯いた。
「おいハイネ!」
ジーナはハイネの肩に触れるとハイネの顔を仰いだ。
「美味しいです」
笑顔に対してジーナは怒鳴った。
「冗談はやめろ」
「あなたのその毒疑惑だって冗談みたいなものじゃないですか。それをやりかえしただけですよ。それでどうです? 私は毒茶を飲みましたが顔が鉛色となったり血を吐いたりしていましょうか? それとも二杯目を飲みましょうか。私は言いましたよ。あなたの疑心暗鬼にとことん付き合う、と。次は何をします、言ってください」
ハイネの眼に怒りの色が見え、ジーナは考える。遅効性の毒であるのならいまここで症状が出ないのは当然で……
だとしたら飲んだハイネはこのまま倒れるわけだが、このあと儀式に出ることは不可能となる。
そんなことをあんなに躊躇なく敢えて行うだろうか? 演技にしてもあまりにも自然過ぎる。
もしも本当に毒を仕込んでいなかったら……全ては私の考えすぎだとしたら……私はハイネに対してなんということを……
「そこまで飲みたくないのなら私は強制なんてしません。それとここでもうあなたとお茶を飲むことなんて」
「いただく」