こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。

龍の騎士との戦い

 扉の先には階段がありジーナが登っていくと話の通りまた扉の間があるも、ジーナは印をすぐに見つけた。

 迷う必要などないぐらいに明白な印がそこにあった。

「あいつ……私の剣でこれをつけたのか」とその無遠慮な横着ぶりに眉をひそめながら扉を開く。

 また新しい闇がそこに、一層の濃い闇。目も慣れさせぬまま、足を入れるとそこには階段の感触があり、ジーナは跳ぶようにして登り出した。もう頂上に辿り着けると決心のようにして、闇の中へ。

 進めば進むほどに行く手を阻むかのように闇が濃くなり動きを鈍らせようとしているかのようだった。

 進むその途中にジーナはルーゲンを不意に思い起こした。唐突に、脈絡なく、闇へと立ち向かっている最中に。

 得体のしれないこのような靄……それはルーゲンであったのかもしれない。

 しかし、とジーナはそこに悪意は湧かなかった。あの人は、思うと同時にジーナの心は温かくなった。とても親切であったと。

 けれども私達は別れなければならなかった。別れる? とジーナは自らの言葉のおかしさに気付いた。

 元はひとつであったのというのか? そうだ、とジーナは足を速めた。あの人は私であったと。

 自分であるのだと。彼はこの後に外の階段を登って龍に会いに来る。龍の婿として……そう私にはそれができない。

 できるはずがない。だからこそ私はふたつにならなければならなかった。

 私はルーゲンを止めない。その止める力も権利もない。あなたは龍の婿だ。呪龍の婿だ。

 旧き龍は討たれ、新しい龍の治世となるのなら、あなたがそれを支えるものとなるがいい。

 だからあなたはそれを為す力として戦っていた私に好意を抱いてくれたのだろう。

 けれども私はその世界には行きはしない。行けはしない。生きてその世界における龍の恩恵は受けることができない。

 そうであるから、あの日に私はその手を振りほどいた。そしてあなたは旧い龍の世界にも龍のいない世界にも生きることができなくなるだろう。

 もうあなたは呪龍と運命を共にするものとなったのだ。あなたがそうであるのなら私は……私は……何と運命を共にするものだというのだろうか?

 ジーナは闇の中ルーゲンのことを思い続けるもひとつの結論と祈りを捧げる。

 どうか階段の先にルーゲン師がいないでくれることを。出会わないようにしてくれと。もう私達は再会する理由なんて、ないのだからと。

『ジーナ君』

 だが闇の中から声が聞こえてくる。しかしそれは自分の中にある声だとジーナはすぐに分かった。

 耳の奥に刻まれた言葉が甦って来る。ただの呼びかけが、幾度もなく響いて届く。

 そうまだ残っている。否定し拒絶したとしてもまだ残っている、その可能性。

 あなたはそれに気づいているのだろう。私が龍の元に跪く可能性を。

 あなたは最初からそれを狙っていたのだろう。私が龍の信徒になることを。

 そしてあなたは未だに心の底では諦めていないのだろう、私が心変わりすることを。

 そのことを私は分かるしあなただって分かっている。私達は、そういうものなのだろう。

 龍に向かったひとつのもの。別れたと思っているが、そうではなく、変わらずに龍に向かっている。

『ジーナ君』

 その声に反発心も敵対心も湧かない。いまも昔も変わらずに同じ思いしかなかった。

 あなたは私なのだろうと。逆に私はあなたなのだろうと。

 気付けば、何も見えない。闇に完全に侵食されたのか手の感覚どころか足は階段や地面を踏んでいるということすらジーナには失われていた。

『ジーナ君』

 呼びかけの声、恐怖……だがその救い……ジーナは剣を抜き、闇を払うとなにかを斬った感覚があった。

 それでいい、とジーナは剣を水平にし、構えた。

 呼びかけが来る、と思った瞬間にその方向へと突き刺した。

 すると声は消え頬には風が触れ、瞼を開いた。月明かりの夜がそこにあった。

 ここは龍の祭壇前の広場だと初めてだというのにジーナには分かった。

 時刻は不明であるが夜空の星を見上げると分かるはずもないというのに、まだ間に合うとジーナは思った。些細な疑いすら抱かずに。

 自分が行く前に龍になることなどないのだと。自分を置いて龍が誕生することなどないのだと。

 自分がいなくては駄目なのだと、ジーナは龍の祭壇に目を向けた。

 すると広場の中央に立っていたなにかが、その人影がようやく動き出した。

 階段を登り切った時から目に入っていたそれ。広場の中にある唯一の存在であり異物であるそれ。

 一本の線でありひとつの影にしか見えなかったもののジーナには何であり、誰であるのかが。

 あちらも突然現れた自分に、シルエットからして明らかに自分だと分かっているだろうというのに、意外にも影は走っては来ないことにジーナは不思議さを覚える。

 龍の騎士が、来る。あの必殺の一撃を自分に放つために来る。

 広場の中心に向かいジーナも歩き出した。ソグの館でのあの日と同じように。

 広場だというのにジーナは直線上に一本道というよりあのソグの長廊下を歩くようにして龍の騎士へと向かって行った。

 龍の騎士もまた横には揺れず正確に些かのズレもなく、ジーナを目指して歩いて来る。

 あの日は警告があったなとジーナは耳の奥で再生する。止れ、まだ間に合う、帰れ、戻れ……いまはもう発せられないその言葉の数々。もう自分はそのままであり龍の騎士もいまは気づいているのだろう。

 止れない、間に合わない、帰れない、戻れない……そういうものなのだ、とジーナは心臓に寸止めされたあの時の衝撃を思い出す。

 これもまた傷なのだろうと。そう、変わらない。死すら覚悟というよりも、決死よりも必死。自分は龍の騎士によって心臓を撃ち抜かれ死を与えられる。

 そのイメージはあの日からずっと頭の中に残っていたものの、それを回避するイメージをどうしても思い浮かべることができずにいた。

 しかし想像は簡単であった。一撃目を躱し続く二撃目を防ぎ反撃……印の力ならこれが可能である。

 いくら龍の騎士の力とはいえ、一度手の内を明かしてしまったのならそれは圧倒的に不利となり、こちらの優位さは揺らぐはずがなかった。

 それにここは狭い長廊下ではなく無限とも言える広場。戦いの場として龍の騎士のやり方が力を発揮する場所だとは言えない。

 だが、そうであるというのにジーナは龍の騎士を撃ち破るイメージが途中でぼやけ、終わりにまで結びつかない事が続いていた。

 いまだってそうであり、自身の三撃目を撃ちこもうとするその瞬間に、闇が来る。意識と思考が途切れてしまう。

 それは龍の力だというのか? とジーナは近づいてくるシオンの姿がまだ影でしかないことに焦りを覚え出した。

 私は龍の騎士を……シオンを討てるのか? 不安が言葉となって脳内に響き出す。

 自分は龍を、呪龍を討つためにここに来た。呪龍は討てる、何度だってそのイメージを、完成されたイメージを頭の中で再生することができる。

 けれども龍の騎士は……この時が来ると分かっていたのにいまこの時になるまで何もできずにいた。

 それはまるで戦ってはならないと言われているように、そうなっているように……呪いが掛けられているようにして龍の広場の中央へシオンへと向かって行く。

 もう間合いに入る、一撃目を……ジーナは意識をするがシオンから殺気が感じられない。

 ソグの館における究極ともいえたあの殺気が伝わってこない。あれは警告の為に出していたものであり、

 そうする必要がない今は出さないということなのだろうか?

 それは合理的であり、戦士として相応しい意識であり、龍の騎士とはそういうものなのだろうか?

 ジーナは自分も殺気が湧かず自ら一撃目を放つという意識すら働かないどころか、剣に手を掛けることすらできなかった。

 もしかして、とジーナは異常なことさえ考えだした。もしかして……このまま我々は何事もなく、互いを通り過ぎるのではないかと。

 そんなはずはない、龍の騎士はそのようなことをするはずがない、とジーナは自らを責めるも、ではお前がそうできるとしたらどうなのだと自らに問うた。

 また、闇が来た。思考が止り、見えるのは龍の騎士の影。

 どうして私達は戦うのだ? 湧き出る問いによって突然、足が止まり動かなくなった。それは自分が龍を討つものであり必然的に龍を護るその騎士を討つのであるから。

 答えはすぐに返ってくる。完全かつ無欠の答えがあるのに、ジーナは頷けなかった。

 あれは敵であるから、とも言葉が来るが、そんなものはすぐに意識の外へと消えていった。

 難しい話なんかではなく私達はそういう関係である。それ以外のなにものでもない、とまた言葉が聞こえるがどこにも入っていかない。

 影が迫ってくる。間合いはもう数歩、瞬きする間に剣は抜かれこの心臓を貫き、その血は捧げられる。龍に、新たなる龍に、呪龍に。私の死で以て世界は完成する。

 影の一定の歩調は変わらずその歩みに隙は無い。この影は誰なのか? とジーナは間抜けのように今更再び自らに問うた。

 何故自分に? と疑問に思わずに問う。この龍の騎士の影……間合いに、入った。

 揺らがずに影は剣を抜き、跳んだ。ジーナは身動きが取れずにいた。

 もう、間に合わないとジーナは自覚するより前に風を感じた。闇にのなかの風を。その冷たい夜風は影を揺らした。

 揺れたのは、髪。揺れたからこそ、そうであるからこそジーナは声だけを掛けられた。

「シオン」

 剣の切っ先が心臓に入る寸前にジーナは聞いた。

「髪、伸ばしたのか?」
< 300 / 305 >

この作品をシェア

pagetop