私をフッた元上司と再会したら求愛された件
 ずっと集中しすぎて脳が疲労している。でもこの上ない達成感。

 大きく息をつくと、隣から「お疲れ」と声がして、ミニクリームパンが差し出された。まさか差し入れをもらえるとは思わず、私は呆然とした。

 コンビニでよく見る四個入りのクリームパンは、戸川さんが選んだんだろうか? 甘いものとか食べなさそうなのに、チョイスがかわいい。意外なギャップにキュンとしていたら、戸川さんは訝しそうに首を傾げた。

「もしかしてクリームパン嫌い?」

「い、いえ! ありがとうございます!」

 ちょっと浸りすぎたのを反省して、私はクリームパンをガシッと掴んだ。勢いで強く握りすぎて、中のクリームパンが変形する。

「そんな慌てなくても」

 挙動不審な私を見て、戸川さんは呆れたように笑った。笑った顔も初めて見た。口元を緩めただけのさりげない笑顔もかっこいい。私の胸の鼓動はさっきから太鼓のように鳴り響いている。

「わ、私、コーヒー淹れてきます!」

 これ以上隣にいたら私のかろうじて残っていた平常心が爆発してしまいそうで、半ば逃げるように席を立った。

(なんで私、こんなにドキドキしてるんだろう……)

 チームの先輩とふたりで残業しても、こんなに動揺しないのに。

 いつもは部下と一線を引いていて、誰かと馴れ合ったりしない戸川さんとふたりきりだからだろうか。でも私の中で渦巻いているのは緊張とはまた違う何かな気もする。

 フロアに設置されたバリスタでふたり分のコーヒーを淹れ終えると、私は席へ戻った。

「あの、ありがとうございました。お忙しいのに手伝っていただいてすみません」

 今度は別の仕事をしているらしい戸川さんにコーヒーを差し出して、私も隣に座った。何か話した方がいいのかな。ソワソワしていると、戸川さんがなぜか私の顔をジッと見ていることに気がつく。
< 5 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop