私をフッた元上司と再会したら求愛された件
 でも違った。多分最初から、彼に恋していたんだと思う。人として憧れる気持ちが異性としての好意に傾くのは致し方ない。数年ぶりの恋心を自覚してしまった私の心は複雑だった。過去一、振り向いてもらえる気がしないのだから。

 イケメンで、仕事もできる。絵に描いたような完璧人間の戸川さんは、私みたいな平凡極まりない女なんて眼中にないだろう。自分で考えてヘコむ。シュンとして目線を落とした時、デスクの上に置いていたスマホの画面がパッと明るくなった。

 待ち受けに設定している実家のハムスターの画像の上に、父からのメッセージ通知が表示される。実家のグループメッセージに毎日送られてくる今日のペットの様子についてだろう。

『今日も、おもちは元気よく走り回ってます』

 小学校の先生が書く日誌のような文面に思わず笑ってしまう。私の気も知らないで、父は今日も呑気だ。

「…………ハムスター?」

 私のスマホ画面が目に入ったらしい戸川さんが、ポツリと呟いた。

「はい、実家で飼ってるんです。父が動物好きで色々飼ってるんですけど、私はハムスターが一番好きで……」

「そっか」

 心なしか戸川さんの声が高くなったように聞こえる。もしかして動物好きなのかな? 私のスマホ、ジッと見てるし。

「父が毎日実家のペットの様子をメッセージで送ってくれるんです。これとか……」

 メッセージに送られてきた『おもち』の写真を思わず見せると、戸川さんの姿勢が前のめりになった。興味を持ってもらえているのがわかって、私も嬉しくなる。

「この子は『おもち』って名前で……ジャンガリアンハムスターなんですけど真っ白なんで、おもちです。ぷくぷくしてて、本当にかわいいんですよ~。仕事の合間におもちの写真見て元気をもらってます」

「本当だ。かわいいな」

 つい親バカ心がでてしまったけれど、戸川さんはお世辞ではなく本当にかわいいと思っていそうな声で同意してくれた。
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