チークタイムが終わる前に ー 恋なんてないと思ってた私に舞い降りた声

エピローグ 静かな夜のステップ

 数か月後の週末。
「RUBY MOON」の店内は、いつもより落ち着いていた。
 周年イベントの喧騒が嘘のように、今夜は常連だけが集まり、小さな輪の中で音楽を楽しんでいる。

 志保はカウンターの端に座り、氷の音を耳にしながら笑っていた。
 隣には片岡。グラスを片手に、ステージに目を向けている。
 派手な言葉も、特別な仕草もない。
 ただ、同じ時間を同じ場所で過ごしているだけで、十分だった。

 ふとステージからスローな曲が流れ出す。
 片岡が振り返り、少しだけ照れくさそうに手を差し出した。

「……踊りますか」
「ええ。もちろん」

 フロアに出る。
 もう緊張はない。
 二人のステップは、互いに合わせようとしなくても自然に揃っていた。

 志保は笑みを浮かべた。
「……不思議ですね。踊っていると、年齢も、時間も、関係なくなる」
「そうですね。残るのは……一緒に踊ってる、という事実だけ」

 彼の言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
 もう、恋に落ちることはないと思っていた。
 けれど、それよりも確かなものがここにあった。

 音楽に揺られながら、志保は心の中でそっと言葉をつぶやいた。

 ――わたしは、まだ踊れる。

 そして今夜も、彼と一緒に。

<END>
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