チークタイムが終わる前に ー 恋なんてないと思ってた私に舞い降りた声
カウンター席に並んで腰を下ろすと、志保の前にレモンスライスを浮かべたジンジャーエールが置かれた。
「前と同じでいいかと思って」
「覚えてたんですね」
「忘れるわけないでしょう」
そう言って、片岡は自分のグラスに水を注ぎ、氷がカランと鳴った。
しばらくは、ステージで次の曲の準備をする音を聴きながら、ふたりとも黙っていた。
その沈黙は、不思議と心地よかった。
「片岡さんは、やっぱりオールディーズが好きなんですか?」
「ええ。特に60年代の曲。……ああいう音は、単純に聴こえるけど、実はすごく緻密なんですよ」
「そうなんですね。私は、ただ踊って楽しいからって理由だけで聴いてました」
「それでいいんです。理屈じゃない。体が反応するかどうか、それが一番」
志保は、その言葉に少し安心したような笑みを浮かべた。
「……そういう考え方、好きです」
「僕は逆に、あなたの踊り方が好きですよ。曲を知ってるかどうかじゃなくて、ちゃんと“聴いて”踊ってる」
褒められ慣れていないせいか、志保はグラスのレモンをストローでつついた。
耳の奥がじんわり熱くなる。
「他にも好きなこと、あります?」
「好きなこと……そうですね。料理は仕事柄、どうしても日常になってしまって。趣味っていうより、責任のほうが大きいです」
「わかります。僕も音楽が仕事になってから、純粋に楽しむ時間は減りました」
「……じゃあ、この店は?」
「この店は……ああ、これは例外です」
片岡はカウンターを指先で軽く叩いた。
「ここは僕にとって、唯一“好き”と“仕事”が両方ちゃんと残ってる場所です」
志保はグラスを持ち上げ、氷越しに片岡を見た。
言葉の端々に、彼がこの場所を守ってきた年月の重みがにじんでいる。
そして、その思いがなぜか、自分の胸にも静かに入り込んでくる。
「……だから、また来ます」
志保がそう言うと、片岡は短く息をつき、穏やかに笑った。
「じゃあ、僕もここで待ってます」
「前と同じでいいかと思って」
「覚えてたんですね」
「忘れるわけないでしょう」
そう言って、片岡は自分のグラスに水を注ぎ、氷がカランと鳴った。
しばらくは、ステージで次の曲の準備をする音を聴きながら、ふたりとも黙っていた。
その沈黙は、不思議と心地よかった。
「片岡さんは、やっぱりオールディーズが好きなんですか?」
「ええ。特に60年代の曲。……ああいう音は、単純に聴こえるけど、実はすごく緻密なんですよ」
「そうなんですね。私は、ただ踊って楽しいからって理由だけで聴いてました」
「それでいいんです。理屈じゃない。体が反応するかどうか、それが一番」
志保は、その言葉に少し安心したような笑みを浮かべた。
「……そういう考え方、好きです」
「僕は逆に、あなたの踊り方が好きですよ。曲を知ってるかどうかじゃなくて、ちゃんと“聴いて”踊ってる」
褒められ慣れていないせいか、志保はグラスのレモンをストローでつついた。
耳の奥がじんわり熱くなる。
「他にも好きなこと、あります?」
「好きなこと……そうですね。料理は仕事柄、どうしても日常になってしまって。趣味っていうより、責任のほうが大きいです」
「わかります。僕も音楽が仕事になってから、純粋に楽しむ時間は減りました」
「……じゃあ、この店は?」
「この店は……ああ、これは例外です」
片岡はカウンターを指先で軽く叩いた。
「ここは僕にとって、唯一“好き”と“仕事”が両方ちゃんと残ってる場所です」
志保はグラスを持ち上げ、氷越しに片岡を見た。
言葉の端々に、彼がこの場所を守ってきた年月の重みがにじんでいる。
そして、その思いがなぜか、自分の胸にも静かに入り込んでくる。
「……だから、また来ます」
志保がそう言うと、片岡は短く息をつき、穏やかに笑った。
「じゃあ、僕もここで待ってます」