二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
救命士の勤務は二十四時間体制で、朝は八時半に出勤し、翌日の朝九時まで続く。最初は辛かったが、今ではすっかり慣れた。
着替えてから休憩室で祖母の作ってくれた栄養満点のお弁当を食べるのが、千咲の出勤前のルーティーンだ。
「おいしいですよ。おばあちゃん特製のお弁当ですから」
「実家暮らしはいいよなぁ」
「田上さん、ご飯作ってくれるお相手はいないんですか?」
「お前がそれ聞くか」
じとりとした目で睨まれ、千咲は口を噤んだ。
「すみません、今のはセクハラでした。以後気をつけます」
「⋯⋯そういう意味じゃねぇよ」
ため息をつきながら去っていく田上に首をかしげたが、出勤時間が迫っているため、千咲は食事に集中した。
八時半になると、まずは朝礼をして救急車の鍵を前任者から引き継ぎ、車両と資器材などを点検する。そうしている間にもビービービーと機械音が鳴り響き、消防本部指令センターから出動指令が飛んできた。