二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~

「板倉、行くぞ!」
「はい!」

千咲は送られてきた指令書を出力器からもぎ取り、二分とかからずに救急車に乗り込む。多い時は、これを一日に十五件。命を救う最前線で働くというのは大きな責任を伴うだけに、救急車に乗り込めば一瞬たりとも気は抜けない。

新人の頃は実習との違いにあたふたすることもあったけれど、今ではこの緊張感をコントロールする術を覚えた。

夢だった救命士として働き、毎日が充実している。

そんな中で出会ったのは、積極的に患者を受け入れてくれる搬送先の病院の救急医、須藤(すどう)(かい)

櫂は腕がいいと評判の医師で、同じ病院で働く医師や看護師からだけでなく、救命士からも『彼の元に運べば大丈夫だ』と信頼が厚い。千咲と五歳も変わらないだろう若さながら、手際よく周囲に的確な指示を出す彼に、千咲は密かに憧れを抱いていた。

まるで医療ドラマの主人公のような端正な顔立ちは、真剣な眼差しをより強く厳しく見せる。千咲は新人の頃、自分にも他人にも厳しい彼に叱られたことがあった。

『現場では新人もベテランも関係ない。自分から考えて動くんだ』

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