二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
先輩の指示を待っているだけだった千咲は、それを指摘され自らを恥じた。それ以来、常に自分になにができるかを考え、率先して動くのをモットーにしている。
彼に憧れているのは、それだけが理由ではない。
ある日、傷病者を搬送し終えて救急車に戻る際、『ヘルメットに長靴って、女捨ててるよね』とクスクス笑う声が聞こえてきた。
『わかんないよ? ああやって男所帯に紛れ込んで、か弱い振りするのかも』
『やだ、あざとーい』
救急外来に来ていた病院の事務員だった。たしかに華やかなヘアメイクをしている彼女たちと、二十時間以上働き、汗だくで薄いメイクすら剥げてしまっている千咲とでは、女子力に天と地ほどの差がある。
(こんな嫌みには慣れてる。大丈夫)
悔しいけれど、こんな場所で言い合いをしていいはずがない。ここは命を救う最前線。私情を持ち込んでいい場所ではないのだからと唇を引き結ぶ。