二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
注文した飲み物が運ばれてくると、櫂はそれを一気に半分ほど呷った。そして、ここからが本題とばかりに姿勢を正す。
「千咲」
名前を呼ばれ、心臓が早鐘を打つ。これまでの表情とは打って変わり、千咲を見据える彼の目には明らかな熱情が込められている。
「俺はあの日以来、君のことを忘れたことは一度もない」
戸惑いと喜びがないまぜになり、千咲は押し黙った。
忘れていないのは千咲も同じだ。忘れよう、忘れなくてはと自分に言い聞かせるたび、彼が心からいなくなってくれない現実に直面し、何度も打ちのめされた。
既婚者だとわかっているのに、櫂を忘れられない。
そんな自分が不誠実で最低な人間に思えて、苦しくて仕方がなかった。
「もう一度聞く。あの日、どうしてなにも言わずにいなくなった?」
「それ、は⋯⋯」