二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~

「電話中でも問い詰めてくれたらよかったのに」

櫂の言う通りだ。

本来ならその場で、既婚者でありながら自分と寝たのかと彼に問いただし、話を聞くべきだった。

それなのに、千咲は被害者ぶって諦めたのだ。自分が愛されるはずがないと、そんなことはわかっていたと強がって、彼と顔を合わせる前に逃げ出すしかできなかった。

唇を噛んで俯くと、櫂は慌てて首を横に振る。

「ごめん、千咲を責めているわけじゃない。信頼を得る前に君に手を出したのは俺だ。あの夜の君を放っておけなかったとはいえ、もっと紳士らくし振る舞うべきだった」
「いえ、それは⋯⋯」

それこそ、櫂を責めるわけにはいかない。ホテルに連れ出したのは櫂だが、彼は千咲が周囲の目を気にせずに泣く場所を提供してくれただけ。帰りたくないと誘うかのような発言をしたのは千咲だ。

とはいえ、あの夜のことを思い出すのは恥ずかしく、それ以上なにも言えずに首を振るだけに留めた。

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