二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~

「大変な思いをさせたかもしれないのに、千咲が俺との子供を生んでくれていたことが嬉しくて仕方ないんだ」
「⋯⋯先生」
「ありがとう。紬の命を諦めないでくれて」

頭を下げる彼に、千咲の胸は震えた。

最初は、育てられないと思った。親の愛情を知らない自分に、父親のいない子供を育てるなんて不可能だと。

けれど、エコーで見た小さな心臓のきらめきに、千咲は絶対にこの命を守ってみせると固く心に誓ったのだ。

櫂に妊娠したことを知られたら『堕ろしてほしい』と言わせてしまう気がしていた。だから絶対に隠し通さなくてはと思い込んでいたのに、まさかお礼を言われるなんて。

(そうだ、彼はこういう人だった⋯⋯)

誰よりも目の前の命に向き合い、多くの人を救っていた彼に憧れた。恋愛に冷めた考えを持つ千咲に、『この人となら』と思わせてくれた。

「俺は、君たちと家族になりたい」

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