二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
千咲がどうすべきかと逡巡していると、紬が敷いていたタオルになにかが落ちていることに気づいた。
「あーう」
「紬?」
見ると、先ほど糸井から見せてもらった手帳が落ちている。色褪せた手帳から、彼がどれだけ長い間大切にしているのかがわかる。
千咲は糸井の手帳を拾い、紬を抱き上げると、墓地から出ていく救急隊員の後を追った。
公園墓地の隣には大きな競技場があり、救急車と同じく白と赤の機体のドクターヘリがすでに止まっている。
千咲が急いで糸井の元へと近づくと、濃紺のフライトスーツに身を包んだドクターがヘリから下りてきて、大声で指示を飛ばしている。
彼を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。
(櫂さん⋯⋯?)
一分一秒を争う緊迫した現場で、千咲だけが呆然と立ち尽くす。脳裏には、二年前の記憶が鮮明に蘇ってきた。