冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 シルファンに言葉を遮られて、ユフィルナの眉がピクリと動く。

「……はい。おそらく、先日、王宮に来た日だと思いますが」
 それは彼の言う通りだった。シルファンに呼ばれて王宮へ来て、少しだけ彼の部屋でたわいのない会話をした。なくしたことに気づいたのは、タウンハウスに帰ってからだった。

「そのハンカチが、書簡のやり取りをしていた現場に落ちていたそうだ」

「シルファン殿下は、その証言をお信じになられるのですか?」
 他に目撃者がいなければ、ザネラの虚言ということも考えられるだろう。

「それだけではない」
 シルファンは目を細め、別の紙をポケットから取り出して内容を読み上げた。

「機密文書のある保管庫から出てきた姿を目撃した衛兵がいる。個人的に親密に近づき、軍の動向を探られた兵士もいるという。貴様はその情報をどこに流すつもりだったのだ?」
 そう尋ねる瞳はとても冷ややかだ。

「その証言をした者たちに目通り願えますか?」

「質問に質問で返すな、無礼者。彼らの身の安全のため、直接引き合わせることはできん」

「それでは、お話になりませんね」
 ユフィルナはため息をつきたくなるのを堪えた。だが、周囲の空気は思わしくない。疑惑の眼差しが突き刺さってくるのを感じる。

 国王も沈黙したままだ。これは王家によるエルヴァリシア公爵家排除のための茶番なのだろうか。いや、これまで何代にも渡って国を守ってきた名家を、簡単に切り捨てるとは思えない。ならば、やはりシルファンの独断なのか。それとも――と、ユフィルナは彼の隣に佇んだままのザネラに視線を移す。

 目が合うと、彼女は不安そうにシルファンの背中に隠れた。それに気づいたシルファンが、包み込むようにザネラの肩を引き寄せる。

 か弱く、従順で、色香をまとえば、男性はこちらを見てくれるのだろうか。

 ――いえ、今そんなことを考えても無意味。

 ユフィルナは小さくかぶりを振った。

 父はすぐには戻ってこられない。任務先の領地からここまで馬で三日はかかる。まずこちらから早馬で知らせるとして、だいぶ先になってしまう。

 ――そもそも、人に頼るのが間違い。

 名門の令嬢としての誇りだけは失いたくない。家名を傷つけるわけにはいかない。

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