冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 どうしたらいいか、考えあぐねいているうちに、シルファンがにいっと唇を歪める。

「貴様のような裏切り者を、我が妃とすることはできない。よって、婚約も破棄だ! すぐにユフィルナを捕え、追放せよ!」
 彼がそう言い放った瞬間、大広間はどよめきに包まれた。

 令嬢たちは悲鳴を堪えるように顔を背け、貴族たちは距離を取るように後ろに身を引く。

 それでもユフィルナは、怯まなかった。

 張りつめた背筋をほんの少し伸ばして、王太子を見据える。

 なぜ謂れもない罪で貶められなければならないのか。

「私は、本当に何も――」
 キッと壇上を睨みつけた時、後ろから誰かがやってきて隣に立つのがわかり、途中で言葉を飲んだ。

 近衛かと思ったが、視界に揺れる紺青のマントが、その主の正体を明らかにする。

「お待ちください」
 深く、澄んだ声が空気を切り裂いた。

 漆黒の軍服に身を包んだ長身の男が、ユフィルナよりも一歩、前に出た。彼女は目を瞠ってその大きな背中を視界いっぱいに入れる。

「ゼルナーク・オルフィリス将軍か。なんだ、申してみよ」
 シルファンが顔をしかめながら、彼の名前を呼ぶ。

 二十八歳という若さで前線を任される将であり、ユフィルナの父の腹心だ。そして冷静な物腰と、灰銀の髪と深碧の瞳を持ち、軍人らしからぬ美貌を湛えた面立ち、さらには独身ということで王都の女性たちの憧れの的だった。

 案の定、ゼルナークの凛々しい姿に、令嬢たちが色めき立つ空気をユフィルナも肌で感じる。

「王太子殿下。その断罪はいささか拙速にすぎませんか?」
 ゼルナークは落ち着き払った声で尋ねた。

「……なんだと?」

「ユフィルナ嬢を罪人と断ずるには、提示された証拠はあまりにも粗雑です。筆跡も、証言も、曖昧すぎる。偽装の可能性を排除できない以上、無実の可能性を検討するべきです」
 ゼルナークの冷静な声色が、混乱を鎮めるように場に広がる。

 王太子に楯突くなど、通常ならば死を意味するようなものだ。だが、彼の声は揺るがない。冷静で、毅然としていた。

「では貴殿は、ユフィルナ嬢の潔白を証明できるというのか?」

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