冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 重々しい声を発したのは、それまで黙って断罪劇の行く末を見つめていた国王だった。玉座からこちらを見下ろすその眼差しは、鷹のように鋭い。

 ゼルナークは、その視線を真っ向から受け止める。

「今は無実である確たる証拠がない以上、できると断言はできかねますが、彼女を真に知る者として、言わせていただきたい。ユフィルナ嬢は、陛下がお疑いになるような卑劣な人物ではございません」

「それで?」

「今ここで真偽を争うことは不可能。ですが、せめてこの場から彼女を遠ざけ、正しい裁きをお与えいただきたく」
 ゼルナークが朗々と語ると、国王はその言葉をしばし噛みしめ、やがてゆっくりと頷いた。

「……よかろう。ユフィルナ嬢の罪については、慎重に調査を進めるものとする。それでよいな、シルファン?」

「……御意に。ただし、婚約は破棄させていただきます。何を考えているのかわからない女との婚姻するのは気が進まない」
 シルファンが不満そうな視線をユフィルナに投げた。

「……ああ、致し方あるまい。エルヴァリシア殿には私から話そう」
 国王は深いため息をつく。

「『あなたの声を聞くたびに、心がふわりと浮きます。たとえ叶わない想いだとしても』――」

「ひっ!」
 唐突にゼルナークの口から零れたロマンチックなセリフに、ユフィルナはぎょっとして、喉の奥で悲鳴を上げた。

「オルフィリス将軍!」
 ユフィルナは慌てて彼のマントを掴み、引っ張った。

「あれほどの美しい想いを手紙にしたためられる女性が、国を裏切るなど笑止千万」
 彼は、それも意に介さず前を向いたまま、流麗に語る。

「手紙……?」
 国王が怪訝そうに白髪の混じった眉をひそめた。

「将軍閣下! それ以上は――」
 ユフィルナは急速に顔に熱が集まってくるのを感じた。

 ――冷静であれ、冷静であれ!

 呪文のように心の乱れを抑えようとするけれど、体中の血が湧きたつように激しく巡って考えがまとまらない。

「ユフィルナ嬢が罪に問われ、行き場を失うというのなら。私が婚約者として彼女の身柄を引き受けましょう。責任は――すべて私に」
 ゼルナークが壇上に向かって、はっきりと口にした。

 これには令嬢たちの口から悲痛な悲鳴が漏れ聞こえる。



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