冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 ――婚約者?

 ユフィルナは聞き間違いかと思ったが、周囲の反応を見るに、やはり「婚約者」と彼は発言したらしい。

 ――いったいどういうこと?

 理解が追いつかなくて、思考がぐるぐるとただ回る。

 もしかしてゼルナークも混乱していて自分の言っていることがわからないのかもしれない……いや、そんなわけないだろう。

 自分で自分にツッコミを入れたものの、本当に意図が読めない。

「貴殿は変わっているな、反逆罪の嫌疑をかけられている淑女を婚約者にしたいとは」

 国王の言葉に、ユフィルナも小さく頷いた。

「しかしながら今回の一件は我が国にとって由々しき事態だ。真相が明らかとなるまでユフィルナ嬢は自宅での謹慎を命ずる。婚約は認めるが、貴殿には正しき調査と監視を求める」

「謹んで、拝命いたします」
 ゼルナークは片膝をつき、恭しく首を垂れた。

「では、下がるがよい」
 王のその言葉にゼルナークがゆっくりと立ちあがり、こちらに振り返る。

「参りましょうか」
 彼にそう言われても、ユフィルナはすぐには動けなかった。

 何も言い返す間もなかった。

 人々の視線が刺すように注がれる中、気丈に顔を上げようとしながらも、情けないことに足が震えているのだ。

 ゼルナークはそんな彼女にそっと手を差し出した。

 ユフィルナはハッとしてその手を取る。手袋越しにもわかる、彼の鍛えられた指先、体温――それらを感じた瞬間、心の緊張が解けた。

「はい……」
 小さく頷いたユフィルナは、静かに歩き出し、彼と共に大広間を後にしたのだった。


******


 待機していた馬車に乗り込むと、「ユフィルナ嬢」とゼルナークに名を呼ばれた。

 陽光の下で翻る藍銅鉱(アズライト)色のマントは、いかなる混乱の只中にあっても揺るぎなく、彼の青の瞳はどこまでも澄んでいて力強い光が宿っている。

「明日、改めてあなたの家に伺います。エルヴァリシア元帥閣下にも、今回の件は連絡が行くことでしょう。閣下が王都に戻られるまでに、あなたの潔白を証明するための手立てを整えますのでご安心ください」
 ゼルナークは微笑を浮かべた。

「オルフィリス将軍まで巻き込んでしまい、なんとお詫びを申したらいいのか……」

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