冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめ、ユフィルナは目を伏せた。

 きっとあのまま話が進んでいたら自分は反論する機会も与えられないまま、護送されていたかもしれない。それを止めるために、ゼルナークは婚約者などと突飛な提案をしたのだろう、という結論にユフィルナはいたっていた。

「違います。私が望む未来に、どうしてもあなたが必要なのです」
 鮮やかな瞳の奥に、燃えるような色が見えた気がしたのは気のせいだっただろうか。

「え――?」
 ユフィルナが顔を上げた時、ゼルナークがずいっと馬車へと乗り込んでくる。

 思わず後ずさる彼女を、逃がすような間合いで見つめたかと思った瞬間、彼の手が彼女の頬を捉え、唇が重なった。はじめは優しく、まるで反応を見るかのように。

 ――な、な、何これ⁉

 恥ずかしくて目を閉じたものの、これが夢でも幻でもないことは、乗せられた体の重みとぴったりと吸いついてくる彼の熱が証明していた。

 ゼルナークが彼女の細い肩を片腕で抱き寄せ、もう片方の手が腰へと回される。

「待っ……」
 彼を押し返そうとしたが、逃げるには狭すぎて身動き一つとれなかった。

「んんっ……」
 重なり合う唇から、吐息が漏れる。

 瞼を震わせ、抗おうとするユフィルナの意思など、彼の強引な愛し方の前ではいともたやすく崩れていった。

「……恋文の返事は、これでよろしいでしょうか?」
 ようやく腕の力を緩め、唇を離した彼は微かに吐息混じりの声で囁く。

「へ、返事……?」
 鼓動がばくばくと激しく打ちつけていた。ゆっくりと目を開け、震える声でそう答えるのがやっとだった。

「あなたはさきほど私が読み上げたものを聞いて、動揺された。中身を知っていなければできない反応です」
 彼は、国王に対してすらすらと言ってみせたロマンチックな一節のことを言っているのだ。熱っぽい視線にじりじりと焼かれて、ユフィルナの体温が上がっていく。

「あ、あれは……ですね、友人に頼まれて、言葉がおかしくないか、見てほしいと言われて……」
 とにかく彼を遠ざけたい一心で嘘をついた。

 そう、ここで嘘をつかなければ友人に申し訳が立たない。



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