冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 ゼルナークが言うように、あの手紙はユフィルナが書いたものだった。ただし「友人に頼まれて」だ。

 ユフィルナは、数日前、友人である男爵令嬢のリザから、恋文の代筆を依頼されたのだった。

           ※ ※ ※

『ゼルナーク様に告白したいの! でもお会いできる機会なんてほとんどないし、そもそも身分も釣り合わないのよね』
 リザは元気に悩みを告白してきた。その勢いで想いを伝えればいいのではと言ったら、睨まれてしまった。

『でもね、手紙でなら告白できると思うのよ』

 すればいいじゃないと返答すると、黙って紙を渡された。

『私、文才ないし、字も下手だからユフィルナが書いてくれないかな?』
 そういうことは自分でしなければと諭したが、捨て犬のようなつぶらな瞳で見つめてきたので、了承してしまった。

『あなたの声を聞くたびに、心がふわりと浮きます。たとえ叶わない想いだとしても……か。さすが、ユフィルナね。どうしたらこんなに素敵な文章が書けるようになるの?』
 リザは素直に感心していたが、ユフィルナは曖昧に笑うだけだった。

 世間一般では、ユフィルナは国軍総司令官――元帥の娘で、愛想がない、誰に対しても冷然とした対応で近寄りがたい、あるいは王太子の婚約者ということでお高く留まっているのではと、やっかむ者もいた。そんな中でもリザだけは親しげに話しかけてきて、タウンハウスを行き来するような仲だった。

 数少ない友人を失うわけにはいかなかったから、断れなかった。

 たとえ、それがユフィルナも密かに想いを寄せている相手に対する恋文だったとしても。

 すでにシルファンの婚約者でもあったし、父も軍人は絶対にだめだと言うので、ずっと心に秘めたままの想いだった。

 何を書いてもいいというから、ユフィルナは(くすぶ)る想いの(たけ)をすべて紙に(つづ)った。


 初めて会った時から胸が切なく高鳴ったこと、ゼルナークのことを知れば知るほど想いは深くなっていったこと。けれど隣に並ぶにはあまりにも遠い存在で。

 自分の気持ちなど重荷にしかならないだろう。それでも伝えずにはいられなかった。この恋が叶わないと知りながらも、それでもあなたを想わずにいられない私をどうか笑わないでほしい。お慕いしている。ずっと、あなただけを追いかけている――。



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