冤罪で王子に婚約破棄されましたが、本命の将軍閣下に結婚を迫られています⁉︎
 中身を確認してもらい封をしたうえで、リザの名前を書き、彼女に渡した。


          ※ ※ ※


 ――それなのに、どうして私の気持ちだと結論付けたの?

「あれは、どう見てもあなたの筆跡でした」
 ゼルナークは彼女の背中に手を回したまま微笑んだ。

「どこで私の筆跡を? 私……オルフィリス将軍に手紙を書いたことなど一度も……」

「元帥閣下――お父上には何度か出されていたでしょう? 遠征先で、閣下は嬉しそうにそれを他の者にも読ませてくれましたよ」
 彼は、くすりと笑みを漏らした。

「な……っ」
 ユフィルナは目を丸くした。

 軍事郵便は検閲が入るから、おかしなことは書けない。誰に読まれてもいいように日常の出来事や体調を気遣うような内容しか書いていなかったが、まさか部下にまで読ませていたとは――!

 任務先から戻ってきたら、問い詰めなければ。いや、その前にこちらが今回の件で問い詰められるかと思うと気が重い。

「手紙が届くと、閣下は珍しく笑顔を見せるんですよ。ですが、それもわかります。あの美しい文字はたしかに心が安らぐのです」

「それで……あの恋文も私が書いたもの、だと……?」

「ええ。それに、リザ・エーデルライン嬢にも、あれが代筆だったと回答をもらいました」
 ゼルナークは目を細める。

 すでに裏はとっていたのか。リザが傷ついていないか、それが心配だ。

「あなたが嘘をつけない性格だということは、元帥閣下から聞いております。たとえば本当は具合が悪いのに元気だと書く時、嫌なことがあったのに楽しいと書く時、決まって文字が揺れたり、インクが滲んだりすると」

 それを聞いて、ユフィルナはぽかんとしてしまった。

「私に届いた恋文の文字は迷いがなかった。つまり、あれはあなたの本心ということで合っていますよね?」

「ち、ちが……」
 震えるように紡いだ否定は、再び唇を塞がれたことで呑み込まれた。

 今度は、もっと深く、容赦なくユフィルナの体を自身に引き寄せ、深く、熱を込めて唇を奪われる。

「は……っ」
 眩暈がしそうなほど、呼吸を奪うような口づけの最中、彼の指が彼女のうなじに絡まり、後頭部をそっと支える。

 ──返事は言葉ではなく、態度で見せてほしい。

 そう告げているような、濃密な時間だった。

 やがて唇が離れた時、ユフィルナは頬を赤く染め、ただ潤んだ瞳でゼルナークを見上げるしかなかった。



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