魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「私は、ずっとここに来てから、あなたになにかをしてもらうだけだった。命を救い、たくさんの人を出会わせ、新しいことに触れさせてくれて――。この先まだ、長い時間があったなら……私はそのひとつひとつの感謝を、あなたに返す機会があったかもしれない。でも……続く未来に、あなたはいないんでしょう……?」
「――――っ」

 苛立ちとも苦しさともつかない呻きとともに、スレイバート様の瞳を悲しみが過ぎる。
 でも彼はすぐに表情を元に戻すと、険しい眼差しで私を睨み付けた。

「だからって……そんなことをして今さらどうなる」

 奥歯を噛み締め、拒むように顔を背けた彼に、私はぶつけるように身体を寄せ、離されまいと彼の襟元をぐっと引き下ろす。

「分かりません。なにも変わらず……実るものもないかも知れない。でも」

 私はもうなにも見逃すまいと、スレイバート様を見つめ続ける。そして彼の瞳が怯えたかのように揺らいだ。多分それは、初めての顔合わせの時に見せた狂気。彼が自分の中に覆い隠していた――この世界からいなくなることへの恐れ。

「本当は……あなただって怖いはずです。なのに、あなたはこのまま私たちに痛みを残さないように消えてしまおうと、そんなことばかり考えてるんじゃないんですか! だとしたら……私は!」
< 171 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop