魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 扉からテレサの足音が近付くのを聞き取り、俺は密かに(ほの)かに残るシルウィーの感触を心の奥底に留めておく。

 これから――きっとボースウィン領は大きく繁栄するだろう。いや……呪いが消えた今、多くの人たちが幸せを掴めるように、俺が絶対に変えてみせる。

「さあお兄様……そろそろお姉様を身ぎれいにして差し上げたいので、出て行ってくださいます? 精霊様と契りを交わす前に柔肌を覗かれたとあっては、お姉様がおかわいそうですもの。ご結婚の後までお預けですわね」
「あぁ……それはもう、いいんだ」
「あら? お兄様?」

 テレサには、あの時のことは――シルウィーが呪いを吸い取ってくれたとしか話していない。苦笑しながら扉の中に迎え入れてやると、たらいを抱えたまま小首を傾げた妹を置いて、俺は外に出て行った。

 廊下に立ち並ぶ窓からは明るい日差しが差し込んでおり、暗く陰鬱としていたこれまでの面影ももうない。心の中は新しい季節を告げる風が吹いたかのように、気持ちよく爽快な気分だ。

 おれはぐうっと腕を掴んで背中を伸ばすと、日差しに目を細め、にっと笑う。

「あ~……最高の気分だぜ!」

 俺達以外誰も知らないけれど、間違いなくシルウィーは偉大な賢者の血筋に相応しい娘だ。

 そして、そんなたったひとりの心優しい少女が起こした奇跡のおかげで、この城がまた大勢の活気で満ち溢れるのも、きっとそう遠くない――。

(~第二部へ続く~)
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