魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
(お前は……自分を犠牲にしてまで、誰にも手を差し伸べることができなかった俺のことを救おうとしてくれたんだな……)

 息がしづらそうに見えたシルウィーの顔に掛かる黒髪を、俺はそっとどける。すると、こちらの気配を感じたかのようにうっすらと頬が緩んだ。

 どうしてこんな奇跡が訪れてくれたのか、俺にもよく分からない。でも、確かなのは……。

(俺はこいつを幸せにしてやらなきゃならない。誰よりも……)

 領地も、家族も、この命も……俺にとって大切なものは全部こいつが救ってくれた。なら、俺は……彼女に今までを忘れさせるくらいの幸福を、与えてやらなければならない。それが、不可能を成し遂げたシルウィーへの、当然の対価だ。

 だからこそ、俺は離しがたくなっていたこの指を、苦労して引き戻す。
 俺は、こいつをあらゆるしがらみから、解放してやりたい。面倒な貴族社会や酷薄な父親……そして、俺自身のことすら。彼女を取り巻くすべての不都合から遠ざけ……穏やかで幸せな暮らしを満喫させてやりたい。
 自由な土地で、こいつのことを一番に想ってやれるやつと、一緒に――。

(でも……こいつがくれた温かさだけは、覚えておきたい……)
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