魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「こんなんで泣くくらいなら、もう寄ってくんじゃねぇ。俺が安全だと勘違いしてんのかもしれねえが、我慢してやれねー時だってあるんだぜ」
「………ぁ……ぅ」

 そう言い捨て、荒っぽい足音を立てて去っていく彼の背中を、私は目で追うことすらできなかった。目まぐるしく回る複数の感情のせいでじわりと滲み出す涙を拭いもせず、肩をぎゅっと抱いて、その場で震える。

「怖いよ……」

 いきなりあんな風に迫られ、突き放されて……。

 いつもは、人を食った態度の中にも不器用な優しさが見えて、安心できていたのに。今日の彼からは、怒りと拒絶の気持ちしか感じられなかった。

 大切な人たちが、いつまでも仲良く笑い合ってくれたら――私はただそれだけを願っていたいのに。彼は今まで出来た絆を振り解いてまでも、厳しく、非情であるべきだと、強くなりたいと願っている。

 どうすれば、私たちの関係はうまくいくのか。
 見当もつかずに私は……座り込んだまま押し潰されそうな胸をぐっと強く抑える――。
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