魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 まるで埃を払うように騎士たちを排除した赤髪の青年は、獰猛に尖った犬歯を光らせ、油断なくこちらに近づいてくる。

 かなり危険な状況だ。後は私とテレサ、結界で魔法を防いでくれているふたりの魔法士と文官のクラウスさんだけ。騎士たちを倒した手並みからしても、無理に抵抗すれば、これ以上の怪我人が出てしまう。

「わ、私が彼を引き付けます! その隙に他から助けを――!」

 魔物の襲撃を受けた直後の今なら、彼に対抗できるような人が留まっているかもしれない。思い余った私はその場から走り出そうとしたが――その手を、テレサががしっと掴んだ。

「お姉様、大丈夫です」
「えっ、でも……」

 なにが大丈夫なものかと、テレサを説得し手を離してもらおうとした私の目に、ふらりと前に出た男性の気の抜けたような背中が映る。クラウスさんだ。

 いかにも頼りなさそうなその姿を見て、赤髪の青年がせせら笑った。
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