魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 そうして去ってゆくエルハルトさんの後姿を見もせずに、ラルフさんは呆然とその場に蹲っている。当然だ……最愛の妹さんの生死も分からず、父親を失い兄にまで見捨てられて。

「立てるかしら……少し、どこかでゆっくり休んだ方がいいわ」

 しゃがみ込み、身も心もぼろぼろの彼に手を差し出したものの、ラルフさんはそれを力ない手で押し退けてふらりと立ち上がり、感情のない瞳で私たちに告げた。

「……悪かった、この通りだ……。もうあんたを襲うようなことはしねえよ。だからもう……ひとりにさせてくれ」
「勝手なことを――」「スレイバート様……」

 そう言いかけたスレイバート様を押し止めると、私はクラウスさんから預かっていた鎖の鍵で、彼の拘束を解いた。

「くれぐれも……自分で自分を傷付けるようなことはしないでね。カヤさんが見ていたら、きっととても悲しみますから」
「……ありがとよ」

 ラルフさんは微かに泣き笑いのような表情を私に向けた後、ふらふらと雑踏に消えてゆく。
 不安げにそれを見送る私の隣で、はっと濃い溜め息を吐き出したスレイバート様の爪先が、地面の小石を蹴っ飛ばした。
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