魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「当たり前でしょうが。あたくしは魔法士でもなんでもないの。魔物が出たっていえば大人しく逃げるしかないでしょう。家の者と一緒にとっとと荷物纏めてこっちの別荘に越してきたのよ」

 どうやら、エルマ様が住んでいた街はリュドベルク城にほど近いらしく、エルハルトさんが城から各地へと散らした騎士団の兵士たちのおかげで、なんとか魔物達の襲撃から身を守りつつここまで逃げてくることができたようだった。

「そしたら、街は怪我人やら、家を失った避難民やらで溢れてるし。しょうがないからあたくしの別荘も解放して、できる限り食事の世話やら怪我の治療やらをしてあげてるのよ。おかげで忙しいったら」

 なんと、元公爵夫人でれっきとした貴族である彼女自ら買い出しに訪れなければならないほど、状況は逼迫(ひっぱく)しているらしい。彼女は肩をこきこき鳴らすと、落とした紙袋を拾い直して、どすんとスレイバート様に預ける。

「おっ――」
「ほらほら付いてきなさい。どうせあなたたちも今日はこの街に泊まるんでしょう。部屋の一室くらいは空けてあげられるわ。街もこんな状態だし、ゆっくりできるところも中々ないからね」

 そしてあっという間にテレサの手を引っ張って、ずかずか通りの向こうに消えていってしまった。どうやら、ずいぶんせっかちな人みたいだ。
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