魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 宿のご主人は奥さんや子どもたちを他の街に避難させたものの、私財をこつこつ溜めて作った自分の店だけは、どうしても手放せなかったらしい。
 どうやら宿泊客は他にはいないようで、ご主人は私たちが周辺の安全を整えたことにひどく感謝し、宿を貸し切りにした上、併設された食堂での豪勢な食事を約束してくれた。

 ――そうして半刻後の今、食堂のテーブルの前には、とんでもなくボリューミーな食事群が並んでいる。

 てかっと甘辛いソースで味付けされた鳥の丸焼きに、一抱えもある木製ボウルに盛られたリュドベルク領産の野菜サラダ。まるで砂山のように盛りつけられた海産物のフライに、焼き目がなんとも食欲をそそるホワイトグラタン。到底食べ切れない量の食事に、食べ盛りの若人な私たちは見るだけでお腹がへこんでいった。

「っし、それじゃあいただくとすっか!」
「待て。なんでてめぇが仕切ろうとしてやがる」

 ぱんぱんと手を叩いて、威勢よく食事を始めようとするラルフさんに、半眼でスレイバート様が文句を付けた。しかし、ラルフさんは構わず口を横に広げると、ばしっと我らが公爵様の背中を叩いて早速大盛の食事を取り分け始める。
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