魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 私たちが去った後のほぼ無明の暗闇に、薄っすらと斜めに伸びた石柱の影。その輪郭線の間から湧き出るようにして、闇色のローブが翻った。

 その隙間に浮かぶのは、人形のように白く感情の無い女の顔。左耳に揺れる赤い三角のルビーがちかりと瞬く。

「くっくっ……様子を見に来てみれば、いい場面に出くわしたものねぇ。予定とは少々違うけれど……いいわ。ここで始末をつけてあげる。シルウィー……」

 細い舌でぺろりと白蛇のような指を舐めると、女の瞳は道化めいた喜悦のアーチを描いた。白い顔がぬるりと溶け消え、カツッという小さな足音が一度だけ響く。

 瞬きほどの間に気配は消えてしまうと――そこには元通り、まるで何事もなかったかのような暗闇がわだかまっていた……。
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