魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 なのにカヤはもうちゃんと前を向いている……そのことを認識し、俺はうじうじと不甲斐ない自分が恥ずかしくなった。

(こいつがちゃんと前を向いてんだ。なのに、兄貴がいつまでもへこたれてんじゃ、格好つかねえよな。よし……)

 オレはバチッと頬を叩いて気合を入れると、立ち上がって妹の身体をぐっと抱き上げた。

「オレも手伝うから、早く動けるように頑張ろうぜ。そしたら、兄ちゃんが色んなところに連れてってやるからな」
「うん! 私ね……最初はやっぱり、ボースウィン領に行ってみたい!」

 妹の明るい顔を前に、助けてくれた人たちのことが思い出される。

 カヤが呪いを受けてからは……オレにとっても本当に苦しい、悪夢のような日々だった。
 唐突に人生の目的と希望を奪われ、大勢の人を救っているひとりの女性を仇だと思い込み、最低最悪の悪事に手を染めかけた。オレはただひたすら弱く、愚かだった。

 でも……それを、たったひとつの救いが覆した。
 聖女シルウィーが評判通りの……いや、それを越える素晴らしい人物であったこと。
< 688 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop