魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が？ ～傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた～

　抜けるような青さを背景に――明るい色彩の街並み、水面に浮かぶ巨大な船舶、その上を横切る優雅な鳥たちを視界に収めると、まるで芸術品を前にしたような感動が記憶に焼き付いていく。
　ここが、ゲルシュトナー領にある、海辺の街クラメーア。目的は別にあるにしても、今からこの未知の街に降り立つ私の胸は、瞬く間に期待と探求心で満ち溢れた。



　スレイバート様の執務室で女性への手紙の断片を見つけた翌日。

　私たちはテレサたちに事情を説明すると、直ちに荷物をまとめてボースウィン城から出発し、一路、帝国北東部にあるゲルシュトナー領へと向かった。

　テレサもカヤさんも、私達も付いていきたいとぶぅぶぅと文句を言ったが、さすがに大所帯で見知らぬ人物のもとへ押しかけるわけにもいかず、今回はお城に留まってもらった。なによりクラウスさんの目を誤魔化すためにも彼女達の協力が必要不可欠だったのだ。お城に戻ったら、お説教のひとつやふたつは覚悟しておかないとならない。

　ともあれ、なんとか城からの脱出は成功し……こうして数日間、旅慣れたラルフさんに色々とお世話になりながら、なんとかここまでやってくることができた。その道中で、手紙に名前があった、メレーナ・エルプセンという人物についても、いくつかの情報を得ている。