魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

8.海辺の街 -blue horizon-

 時刻が過ぎる度にわずかずつ、窓から入り込む空気の匂いになにかが加わってゆく気がする。帝国の中央部やボースウィン領にいては感じることのない、どこか独特で鼻をつく、大きな生命の脈動を感じさせる、潮の薫り。

「おお、見えてきやがったぜ! ほら!」

 少しの間、なだらかな登り道が続いていたのだが……そこを登り切った次の瞬間。 

「わぁぁっ……!」

 目の前の水平線が輝きだした。
 それは馬車が進むたびに少しずつ範囲を広げ、真っ青な水面がせり上がるように姿を現してゆく。

 隣のラルフさんが興奮しながら前方を指差した。

「見ろっ、あっちなんか浮かんでやがる! あれが船ってやつか!」
「すごいすごい! カモメっていうのかな、綺麗な白い鳥がたくさん飛んでますよ! これが……海!」
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