魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「ベリカに力を与えた者……甚だ遺憾ではありますが、闇の精霊と称しましょう――それを、滅ぼすこと」

 目の前で浮かびつつ、意志の揺らぎをまるで見せない光の言葉に、私はごくりと唾を呑む。

「精霊を滅ぼす……そんなこと、可能なんですか?」

 今こうして向かい合っているが、私にとって精霊とは、これまで作り話の中に存在するような、目に見えない曖昧なものでしかなかった。それを滅ぼすなんて……空気を手でつかんで握りつぶせ、と言われているようなもの。まったく可能な気がしてこない。

「通常……我々精霊に、そちらの世界の者たちが干渉することは叶いません。我々から働きかけぬ限りはね。ですが……それができる場合もある。それは、私たちがお前たちの世界にある存在に、この身を宿した時。お前のその胸にある石のように」

 それを聞いた私は、ぼんやりと胸元で光る空色のペンダントに目を移す。ということは、これがもし破壊されたら、ここにいる精霊たちは消滅してしまうのか……。

「そちらとこちらは表裏一体であり、お前たちの世界が保たれねば我らが滅ぶのも道理。ですから、太古から私たちは、時折そちらの世界の器物に身を移し、すべてが無に帰さぬよう、それとなく力を注いできたのです」
「は、はぁ……ありがとう、ございます?」
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