魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 だがそんなことよりも、自然と私は問い詰めるように声を上げていた。

 もしかして、メレーナさんと過ごした年月も、彼女の意のままに操られていたのではないかと危ぶんだからだ。しかし、それは違った。

「それを彼女に強いたのは、今のお前より少し小さい頃です。それまでは、人の世界にあの子を預け、馴染ませる必要がありましたから。それに無理強いはしていません。私の要請を、あの子が聞き届けてくれただけのこと……」

 つまり、それがなければ……もしかしたらお母さんは、メレーナさんと本当の親子の様にずっと仲良く暮らせていたのかもしれない。それを思うと……いくらこの世界に危険が迫っていたのだとしても、やり切れない思いが心の中に溢れてくる。

 しかし同時に……母はきっと皆との未来を守るためにその役目を買って出たのだと思うと、理解はできる気がした。

「あの子は、よく戦ってくれました。この国を巡って災いの目を潰し、民たちの気持ちを希望へと近づけた。それにより、たった数年で闇の勢いは大きく減じました。私たちも、しばらくは大地が清浄に保たれると思い込んでしまったのです」

 母の奮戦ぶりは、各地で噂に聞く通りだ。各国のからの侵略を押し止め、たくさんの人々を災害から救い、正しい魔法の使い方を説いた。そして賢者と呼ばれるようになった母の存在は、きっとこの国をこの先も明るく照らしていくはずだったのだろう。
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